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EP25 限界の音

文化祭まで、残り二週間。


放課後の教室は、レトロ喫茶の準備でざわつき、

夜の生徒会室では予算書が積み上がる。


蓮の帰宅は、毎日二十一時過ぎ。


机の上には、


・クラス会計表

・各部活動の予算申請書

・業者の見積もり比較資料


睡眠時間は三時間。


それでも蓮は言う。


「大丈夫です」


教室。


「如月、これ今日のレシート!」


「了解」


「装飾費、追加いるかも!」


「……あとで計算する」


電卓を叩く音が、小さく規則的に響く。


黒板の前では紬が説明している。


「売上目標、五万円」


どよめき。


五万円。


来場者数、平均三百人。

客単価二百円なら六万円。


(回転率を上げればいける)


頭は冴えている。


数字は綺麗に並ぶ。


体だけが、重い。


生徒会室。


「この部活、去年より五千円増額希望ね」


九条の落ち着いた声。


柚葉が資料をめくる。


「理由は機材老朽化」


蓮が答える。


「妥当です。修理より買い替えの方が長期的に安い」


九条がちらりと見る。


「顔色が悪いわよ、如月くん」


「平気です」


即答。


その瞬間、視界がわずかに歪む。


床が遠い。


(寝不足か)


深夜。


机に突っ伏したまま目が覚める。


二時三十七分。


スマホには通知が並ぶ。


紬:

『明日の買い出しどうする?』


王堂:

『予算足りる?』


柚葉:

『資料、印刷しといた方がいいかも』


全部、自分宛てだ。


(やれる)


そう思う。


思わないと、止まりそうだから。


布団に入っても、眠れない。


数字が頭の中を回り続ける。


そして当日。


生徒会室。


午後の白い光。


九条が説明している。


「この予算案で――」


耳鳴り。


音が遠ざかる。


文字が滲む。


(立て)


意識を引き戻そうとする。


ペンが、指から滑る。


カラン、と乾いた音。


やけに大きい。


「……如月くん?」


立ち上がろうとする。


足に、力が入らない。


床が傾く。


天井が回る。


最後に見えたのは、


九条の目が大きく開く瞬間と、


駆け寄る柚葉の影。


「蓮くん!」


その声を最後に、世界が暗転した。


――


目を開ける。


白い天井。


消毒液の匂い。


保健室。


「起きた?」


静かな声。


九条が椅子に座っている。


その隣で、柚葉が立ち上がる。


「バカ」


一言。


でも声が震えている。


「三十八度。軽い脱水と過労だって」


九条が淡々と告げる。


「文化祭は大事。でも」


真っ直ぐな視線。


「あなたが倒れてまで守るものじゃない」


責めるでも、怒鳴るでもない。


逃げ場のない、正論。


蓮は目を閉じる。


(情けない)


両立できると思っていた。


やれると思っていた。


柚葉が続ける。


「昔からそう。限界まで黙って無理する」


核心を刺す。


九条が静かに言う。


「如月くんは、一人で全部抱える癖があるわ」


天井の白が眩しい。


初めて、自覚する。


(無理してたのか)


九条が立ち上がる。


「今日は何もしないで」


少しだけ柔らかい声。


「副会長命令よ」


柚葉も腕を組む。


「生徒会は任せなさい」


二人の視線。


逃げられない。


でも、不思議と。


嫌じゃない。


蓮は小さく息を吐く。


「……お願いします」


初めて、任せた。


文化祭は止まらない。


でも。


蓮の中で、何かが変わり始めていた。


一人で背負う形から、


誰かと支える形へ。


それはきっと、


痛みと引き換えに得た変化だった。

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