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EP23 協力という名の布石

生徒会室の扉を開けた瞬間。


三人の視線が、静かに交わった。


九条雅は椅子に座ったまま、穏やかにこちらを見る。

如月蓮は、資料から顔を上げ、わずかに目を見開いた。


その一瞬を、紬は見逃さない。


――驚いた。でも、動揺はしていない。


胸の奥が、小さく軋む。


それでも紬は、完璧な笑顔を浮かべた。


「突然ごめんね。文化祭のことで、ちょっと相談があって」


声は柔らかく。

敵意は、一切混ぜない。


九条が静かに椅子を引く。


「どうぞ。一ノ瀬さん」


名字呼び。


線を引く呼び方。


「ありがとう、生徒会長」


紬は自然な動きで室内に入り、蓮の隣へ立つ。

ほんの少しだけ、近い位置。


気づくかどうかの距離。


「クラス企画の予算、少し見直してもらえないかなって思って」


資料を差し出す。


だが視線は、一瞬だけ蓮へ。


「……如月くん、いるんだね」


あえての名字。


対等を装う。


蓮は短く頷いた。


「書記だからな」


落ち着いた声。


昔のような揺れはない。


それが、少し悔しい。


九条が資料を受け取り、目を通す。


「全体予算が減っているのは知っているわよね」


「うん。だからこそ、協力できることがあればと思って」


協力。


その言葉に、室内の空気がわずかに変わる。


九条は視線を上げる。


「協力、というと?」


「各クラスの意見をまとめるよ。希望額の優先順位とか、譲れる部分とか」


にこやかに続ける。


「如月くんも大変そうだし」


わざと一拍置く。


「少しでも負担、減らせたらって」


蓮を見る。


反応を待つ。


「……助かる」


短い返事。


それだけ。


胸の奥が、じわりと熱を持つ。


――もっと揺れてよ。


九条が、静かに言った。


「ありがたい提案ね。でも、最終判断は生徒会がするわ」


柔らかい声。


だが芯は固い。


「責任も、私たちが持つ」


主導権の宣言。


紬は笑顔を崩さない。


「もちろん。公平にやるよ」


視線がぶつかる。


穏やかな顔の奥で、火花が散る。


蓮は、その微妙な空気を察しながらも、口を開いた。


「文化祭を成功させたいのは、みんな同じだ」


どちらにも寄らない言葉。


でも、それは逃げではない。


全体を見る目。


紬は一瞬だけ黙る。


――前みたいに、私を優先しない。


その事実が、はっきり胸を刺す。


それでも、引かない。


「うん。だからこそ、力になりたい」


あくまで協力者の顔で。


九条はそんな紬を、静かに観察している。


笑顔の奥にあるものを、見逃さない目。


「では、一度案をまとめて提出してもらえる?」


穏やかな声。


「その上で判断するわ」


牽制と受諾。


紬は小さく頷いた。


「分かった」


一歩下がる。


だが視線は、蓮から外さない。


――まだ、私の味方でしょ?


言葉にしない圧。


蓮はまっすぐ返す。


「数字で判断する。それだけだ」


曖昧ではない。


選ばない代わりに、偏らない。


それが今の彼の立場。


紬の指先が、わずかに強く握られる。


奪われる前に、戻す。


正面からではなく。


協力者として。

理解者として。

味方として。


近づく。


「じゃあ、まとめてくるね」


踵を返す。


扉の前で一瞬だけ振り向く。


九条と視線が合う。


静かな笑み。


――引かないわよ。


そう言っている目。


扉が閉まる。


沈黙。


九条が、ゆっくり息を吐く。


「……本気ね」


蓮は資料を見つめたまま言う。


「ああ」


でも、その声は揺れていない。


九条は横目で彼を見る。


――この子は、もう簡単には戻らない。


それが分かるからこそ。


戦いは、これからだ。


文化祭の準備はまだ始まったばかり。


けれど。


生徒会室の中だけは、もう開戦している。


協力という名の布石が、静かに盤上へ置かれたのだった。

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