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EP21 学校祭、動き出す

廊下に貼られた一枚のポスター。


【文化祭実行準備 各部ヒアリング開始】


その文字の前で、蓮は小さく息を吐いた。


「……行くか」


隣で柚葉が腕を組む。


「覚悟はできてる?」


「できてない」


即答。


それでも、二人は歩き出した。


逃げる選択肢は、最初からない。


■ サッカー部


「予算? 当然増額でしょ」


王堂は腕を組み、余裕の笑みを浮かべる。


「今年は目玉やるから。人工芝レンタルして、外部も呼ぶ予定」


「人工芝……?」


柚葉が資料をめくる。


「それだけで三万円超えるよ」


「でも“映える”だろ?」


軽い口調。


試すような視線。


蓮は感情を乗せずに返す。


「前年度は一万五千円です」


「だから今年は変えるんだって」


沈黙。


空気が張る。


「……検討します」


それ以上は言わない。


王堂は鼻で笑う。


「期待してるよ、元副キャプテン」


その呼び方に、もう重みはない。


蓮は振り返らなかった。


■ 吹奏楽部


「ステージ照明を増やしたいんです!」


「音響も外注したくて!」


熱量が違う。


希望額はほぼ倍。


柚葉が素早くメモを取る。


「現状予算では難しいですね」


「ええ!? なんとかならないですか!?」


圧。


期待。


焦り。


蓮は淡々と告げる。


「今年の全体予算は約50万円。去年より3万円減っています」


具体的な数字。


一瞬、空気が冷える。


■ 演劇部


「衣装代が足りなくて……」


「去年は先輩が自腹で……」


切実だった。


柚葉が小声で言う。


「これ、優先度高いかも」


蓮も頷く。


「実行委員と相談します」


それ以外も同じだった。


美術部。


軽音部。


科学部。


茶道部。


全員が本気だ。


全員が「自分たちが一番」と信じている。


廊下を歩く頃には、二人とも無言だった。


――生徒会室。


扉を開ける。


がらんとした室内。


夕陽が机を赤く染めている。


柚葉が鞄を置き、そのまま机に突っ伏した。


「……疲れた」


「圧がすごいな」


蓮も椅子に腰を下ろす。


天井を見上げる。


「全体予算、足りると思う?」


「正直、無理」


即答だった。


「希望額全部通したら、八十万超える」


「三十万オーバーか」


沈黙。


窓の外から運動部の掛け声が響く。


柚葉が顔だけ上げる。


「でもさ」


「ん?」


「みんな本気だった」


蓮は小さく笑う。


「そうだな」


去年までは、要求する側だった。


今は、振り分ける側。


立場が変わるだけで、こんなにも景色は違う。


「嫌われるかもな」


ぽつりと漏らす。


柚葉が横目で見る。


「蓮、嫌われ慣れてないもんね」


「慣れたくもない」


小さな笑い。


少しだけ空気が柔らぐ。


けれど、柚葉は真顔に戻る。


「でも」


視線が真っ直ぐ向けられる。


「バランス取れるの、蓮だと思うよ」


「俺?」


「感情で流されない。ちゃんと全体を見るから」


真正面の評価。


照れ隠しの言葉は出てこない。


代わりに、深く息を吐く。


「……やるしかないな」


「うん」


二人、同時に資料を広げる。


赤い夕陽の中。


数字と希望と現実を並べる。


生徒会室の空気が、少しずつ“戦場”に変わっていく。


そのとき。


扉が開いた。


「お疲れさま、如月くん。三浦さん」


九条が入ってくる。


机いっぱいの資料を見て、わずかに口元を上げた。


「ずいぶん揉まれた顔ね」


「予算戦争です」


柚葉が苦笑する。


九条は静かに頷く。


「歓迎するわ」


視線が、蓮に向く。


「ここからが、生徒会の本番よ」


その言葉で、胸の奥が少しだけ熱を帯びた。


――追いかける側じゃない。


――支える側でもない。


“決める側”。


蓮は資料を握り直す。


文化祭は、まだ始まったばかりだ。


だが確実に。


校内のあちこちで、小さな火種が灯り始めている。


そしてその炎を、どう燃やすか。


それを決めるのは――


生徒会だった。

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