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EP20 クラスの出し物会議

放課後の教室は、いつもより熱を帯びていた。


黒板には大きな文字。


【文化祭 クラス企画決定会議】


担任が軽く咳払いをする。


「二年最後の文化祭だ。思い出に残るものにしよう」


その一言で、空気が弾けた。


「お化け屋敷!」

「メイド喫茶!」

「脱出ゲーム!」

「クレープ屋!」


次々と案が飛ぶ。


教室が、祭りの前の匂いをまとい始める。


蓮は腕を組み、全体を見渡していた。


以前なら。


無意識に、紬の言葉を待っていただろう。


けれど今は違う。


誰が盛り上げているか。

誰が流れを握るか。

どこで収束するか。


自然と、全体を見ている自分がいる。


「静かにー!」


クラス委員が黒板に案を書き出す。


・お化け屋敷

・カフェ

・縁日

・脱出ゲーム

・演劇


そのとき。


紬が静かに手を挙げた。


「カフェにするなら、コンセプト決めない?」


空気が、すっと寄る。


「普通の喫茶店じゃなくて、テーマ型にした方が目立つと思う」


やはり上手い。


言葉が短いのに、方向を決める。


「例えば?」


「レトロ喫茶とか、和風とか」


一気にざわめきが広がる。


王堂が腕を組み、笑う。


「スポーツカフェは? サッカー部の写真展示とかさ」


男子が笑う。


紬もくすっと笑う。


自然と、その中心にいる。


蓮はその光景を見る。


胸はざわつかない。


代わりに、計算する。


(飲食は利益率高い。でも初期費用が跳ねる)


去年の平均利益。

約2万円。


だがテーマ型にすると装飾費が増える。


三万近くは見ておくべきだ。


自然に口が開く。


「飲食は儲かるけど、初期費用も高いぞ」


数人が振り向く。


「内装凝るなら三万近くいくかも」


数字が出た瞬間、空気が変わる。


ふざけ半分の議論が、少しだけ現実に戻る。


紬が視線を向ける。


「詳しいね」


少し探るような目。


「まあ、少し」


生徒会の話はまだ広まっていない。


でも“知っている側”に立つ感覚は、悪くない。


クラス委員が言う。


「じゃあ三つに絞ろう」


最終候補。


・レトロ喫茶

・お化け屋敷

・縁日


多数決。


結果――


レトロ喫茶に決定。


歓声が上がる。


紬が満足そうに頷く。


王堂が軽く拍手する。


「決まりだな」


その声は軽いが、周囲は自然と動く。


中心は、まだ紬。


だが。


流れを整えたのは、蓮だった。


役割決めが始まる。


仕入れ班。

装飾班。

宣伝班。


委員が声を上げる。


「会計できるやついる?」


一瞬の沈黙。


そのとき。


「如月、向いてそうじゃね?」


誰かが言う。


「数字強いし」


「確かに」


視線が集まる。


蓮は少し驚く。


紬が言う。


「いいと思うよ」


柔らかい声。


以前なら。


その一言で、即答していただろう。


でも今は違う。


(生徒会もある)


負担は増える。


文化祭全体の予算管理と、クラス会計。


ぶつかる可能性は高い。


それでも。


逃げる理由にはならない。


「やるよ」


短く。


自分で選んだ言葉。


クラスが頷く。


王堂がにやりとする。


「頼むぜ、元副キャプテン」


軽い冗談。


まだ棘はない。


会議が終わる。


夕日が教室を橙色に染める。


黒板に残る文字。


レトロ喫茶。


文化祭は、確実に動き出した。


そして。


蓮はもう、誰かの背中を追う位置にはいない。


クラスと生徒会。


二つの立場を持つ存在になりつつある。


その事実を、


紬だけが、静かに意識していた。


蓮が、


自分のいない場所でも役割を持ち、


必要とされ始めていることを。


文化祭は、ただの行事じゃない。


立場が変わる舞台だ。


まだ誰も気づいていない。


この選択が、


やがて小さな対立を生むことを。


そして――


誰が味方で、誰が優先されるのか。


それが、はっきりする瞬間が来ることを。

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