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EP18 もう一人の書記

放課後の生徒会室。


資料をまとめていると、副会長が軽く言った。


「ねえ如月くん、このプリントさー」


机の端を指で叩く。


「もう一人の書記ちゃんとこ持ってってあげてくんない?」


「もう一人の……?」


「あー、事情あって今学校来れてない子。連絡は取ってるけど、データだけじゃ分かりにくいってさ」


会計が淡々と補足する。


「提出期限は明日。今日中に渡せるなら助かります」


九条は一瞬だけ蓮を見る。


「……無理なら私が行くわ」


「いえ、大丈夫です」


住所のメモを受け取る。


住宅街の一角。


知らないはずの場所なのに、どこか懐かしい響きがあった。


インターホンを押す。


ピンポーン。


足音。


ドアが開く。


「はい?」


現れたのは、部屋着姿の少女。


肩までの髪。

大人びた顔立ち。

でも、どこかで見たことがある気がして――


「生徒会の書類を……」


差し出しかけた瞬間。


彼女の目が、ぱっと大きく開いた。


「……え?」


一歩、近づいてくる。


じっと、顔を覗き込まれる。


「ちょ、ちょっと待って……」


鼓動が一拍、強くなる。


「……もしかして」


唇が震える。


「蓮……?」


時間が止まる。


その呼び方。


その声。


脳裏に、夏の校庭が浮かぶ。


汗だくで走り回った放課後。

帰り道の公園。

泣きながら「待ってよ、蓮!」と追いかけてきた小さな背中。


「……柚葉?」


次の瞬間。


「やっぱり!!」


勢いよく腕を掴まれる。


「うそでしょ!? なんで!? え、夢!?」


「ちょ、落ち着け……」


笑い方は昔のまま。


でも背は伸びて、声も少し低くなっている。


「引っ越してから、会ってないよね……?」


小学生の冬。


急に決まった転校。


事情は詳しく聞けなかった。


“またね”も、ちゃんと言えなかった。


「……ああ」


短い返事。


柚葉は、少しだけ目を細める。


「ずっと、会えないと思ってた」


その声は、さっきよりずっと静かだった。


「なんで、ここに?」


「生徒会の……書記」


「え?」


目が丸くなる。


「え、ちょっと待って。私もなんだけど」


「……は?」


「事情あって、今学校あんまり行けてないけど。書記、私」


一瞬、沈黙。


そして二人同時に吹き出す。


「なにそれ」


「偶然すぎない?」


笑いながら、柚葉がふっと表情を変える。


「ねえ、蓮」


距離が、ほんの少し近づく。


「昔さ」


視線がまっすぐ向けられる。


「“また会えたらいいな”って、ずっと思ってた」


胸の奥が、かすかに熱を持つ。


あの頃の“約束未満”が、今ここで続いている。


風が吹き、カーテンが揺れる。


「……久しぶりだな」


ようやく、それだけ言えた。


柚葉は、ゆっくり微笑む。


「うん」


少しだけ照れた顔で。


「おかえり、蓮」


その言葉は、

再会を祝う言葉なのか、

それとも――


物語を、また動かす合図なのか。

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