EP15 偶然という名の違和感(紬視点)
日曜日。
王堂と別れたあと、紬は駅前を歩いていた。
理由はない。
強いて言うなら、帰るには少し早かっただけ。
ショーウィンドウに映る自分を、なんとなく確かめる。
(別に……)
誰に見せるわけでもない。
そのとき。
デパートの入口付近。
見覚えのある背中が、視界に入った。
――蓮?
足が止まる。
隣にいるのは、白。
風を含んだワンピース。
九条雅。
どうして、二人で。
胸の奥が、わずかに軋む。
(仕事よね)
生徒会。
買い出し。
理由はいくらでもある。
紬は人波に紛れ、距離を取る。
それでも、目は追ってしまう。
並んで歩く二人。
肩ひとつ分の距離。
近すぎない。
遠くもない。
自然だった。
あまりにも。
迷子の子どもに、九条がしゃがむ。
蓮は、迷わず動く。
案内所へ向かう背中に、ためらいがない。
戻る。
並ぶ。
役割が、言葉なく決まっている。
親が駆け寄る。
何度も下げられる頭。
九条は微笑む。
学校で見るより、ずっと柔らかい顔。
そして。
「ありがとう、蓮くん」
空気が、一瞬止まった気がした。
名字じゃない。
距離のある呼び方じゃない。
名前。
しかも、迷いなく。
蓮はわずかに目を見開き、それでも隣に立っている。
(……いつから?)
そんな呼び方を、受け止める距離だった?
胸の奥に、じわりと広がる感覚。
怒りではない。
けれど、穏やかでもない。
ざらつく。
うまく言葉にできない。
(たまたまよね)
今日だけ。
そう思う。
思うのに。
二人の間に流れる空気が、妙に馴染んでいる。
知らない蓮。
自分の知らない顔。
それが、九条の隣で自然に存在している。
気づけば、足が一歩前に出ていた。
近づくつもりはない。
ただ、確かめたかった。
(別に、気にしてない)
自分に言い聞かせる。
それでも、目が離れない。
白が揺れる。
蓮の視線が、そこへ落ちる。
ほんの一瞬。
柔らかい目。
胸が、きゅっと締まる。
理由は、分からない。
ただ一つだけ、確かだった。
あの距離は。
気に入らない。
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