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EP13 三十分前の白

日曜日の駅前は、平日よりもざわめいていた。


ガラス張りのデパート入口の前で、蓮は腕時計を見る。


――待ち合わせ、三十分前。


早すぎる。


分かっている。

それでも家にいると、余計な想像ばかりが膨らんだ。


(落ち着け。これは仕事だ)


校内行事の備品購入。

副会長は家族行事、会計は塾、庶務は体調不良。


結果――


「如月くん、悪いけど一緒に来てくれる?」


会長と、二人きり。


(悪いどころじゃないだろ……)


自動ドアが開くたび、視線が吸い寄せられる。

違う。

また違う。


鼓動だけが律儀に早まっていく。


そのとき。


視界の端に、白が差した。


白いワンピース。


風を含んだ布地が、やわらかく揺れる。


九条雅だった。


一瞬、気づけなかった。


制服の張りつめた印象はなく、髪もいつもより自然に下ろしている。

光を受けて、輪郭がやわらぐ。


「……待たせた?」


穏やかな声。


「い、いえ。今来たところです」


即答したあとで後悔する。


三十分前だ。


九条は蓮の顔と腕時計を見比べる。


「……三十分前に?」


沈黙が答えになる。


小さく、笑われた。


「真面目すぎ」


胸が、ひときわ強く打つ。


「今日は制服じゃないから、そんなに緊張しなくていい」


――それが原因なんですが。


「行きましょうか、書記くん」


歩き出す九条の隣に並ぶ。


肩ひとつ分の距離。


近い。


(近い)


それだけで、意識が持っていかれる。


店内は冷房が効いていて、穏やかな音楽が流れている。

九条は迷いなく文具売り場へ向かった。


「ポスター用紙は特大サイズ。去年より十枚多めに」


「はい」


「マーカーは黒を三本、赤は二本で足りるわ」


メモを取る。


手は、思ったより震えていない。


――仕事だ。


意識を切り替えると、呼吸が整う。


「如月くん」


不意に名前を呼ばれる。


「はい」


「顔、硬い」


「……そうですか?」


九条は首をわずかに傾ける。


「緊張してる?」


「……してます」


正直に言うと、九条は一瞬驚き、それから柔らかく笑った。


「私と二人だから?」


否定できない。


視線を逸らした沈黙が、答えになる。


九条は小さく息をついた。


「安心して。今日は“上司”じゃない」


買い物かごを持ち直す。


「ただの買い出し仲間」


白がまた揺れる。


その動きが、やけに目に残る。


(綺麗だ)


視線がぶつかる。


「なに?」


「……なんでもないです」


視線を逃がした瞬間、ポスター用紙の束が傾いた。


「あ」


落ちる――


その前に、手が重なる。


同時に支える。


指先が触れた。


一瞬。


わずかな接触なのに、体温だけがはっきり伝わる。


九条も気づいたのか、目がわずかに見開かれた。


「……意外と重いわね」


「……はい」


手はすぐ離れた。


なのに、感触だけが残る。


レジへ向かう途中。


九条がぽつりと言った。


「今日、来てくれてありがとう」


「仕事ですから」


「それだけ?」


足が止まる。


九条は前を向いたまま続ける。


「本当は、一人で来るつもりだったの」


「え?」


「でも……少しだけ、心細かった」


思わず隣を見る。


完璧に見えるこの人が。


九条は、こちらを見ずに微笑む。


「だから、助かった」


その笑顔は、生徒会長ではなく。


ただの、少女だった。


胸が大きく鳴る。


(これは、仕事じゃない)


ただの買い出しでもない。


何かが、確実に動いている。


荷物を分けて持ち、並んで歩く。


雑踏の中、二人だけの速度ができていた。


触れそうで、触れない。


けれど昨日より、確実に近い。


九条は心の中で、小さく思う。


――三十分前に来るなんて。


本当に、ずるい。


そして蓮はまだ知らない。


この休日が、


彼の“居場所”だけでなく、


“選ぶ未来”まで変え始めていることを。

また読みたい!!続きが気になる!って人はこれからもぜひ応援してください

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