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EP12 数字と覚悟

翌日、放課後。


生徒会室の扉を開けた瞬間、蓮は昨日とは違う空気を感じ取った。


机は円形に並べられ、すでに数人が席についている。

雑談はない。だが、張りつめすぎてもいない。


――ここは、そういう場所だ。


蓮は一瞬、足を止めた。


「来たね」


席の奥から、九条雅が静かに声をかける。


「今日は顔合わせ。緊張しなくていい」


……その言い方が、一番緊張する。


蓮が空いている席に腰を下ろすと、九条は全員を見渡した。


「じゃあ、改めて自己紹介をしましょう。役職順で」


最初に立ち上がったのは、背筋の伸びた女子生徒だった。


「会計の三枝澪です」


黒髪をきっちりまとめ、眼鏡の奥の視線は鋭い。


「予算管理と会計処理を担当しています。

無駄遣いは嫌いなので、そのつもりで」


ぴしっと一礼。


(……理屈で殴ってきそうだ)


次に、椅子をぐいっと鳴らして立ち上がったのは、明るい茶髪の女子だった。


「副生徒会長の日向莉子でーす!」


制服は着崩し気味だが、声はよく通る。


「細かいことは会長と会計がやるから、

私は場を回す係って感じかな!」


にっと笑って、蓮を見る。


「よろしくね、新入りくん」


空気が、一段軽くなる。


続いて、もじもじしながら立ち上がった男子。


「あ……えっと……」


視線が定まらない。


「庶務の、黒崎


崎 恒一です……」


声は小さいが、必死に続ける。


「書類整理とか、備品管理とか……担当です。

話すのは苦手ですけど……仕事は、ちゃんとやります」


そう言って、ぺこりと頭を下げた。


九条が軽く頷く。


「ありがとう」


それから、九条は一瞬だけ空いた席に視線を向けた。


「書記はもう一人いますが、事情があって、しばらく欠席です。

復帰次第、改めて紹介します」


淡々とした説明だった。


そして、九条自身が立ち上がる。


「生徒会長の、九条雅です」


その声で、空気が引き締まる。


「みんなが過ごしやすい学校を作るために、ここにいます。

……堅苦しく考えなくていい。責任は、私が取る」


一拍置いて、少しだけ柔らかく微笑んだ。


「だから、思ったことはちゃんと言ってほしい」


そして、視線が蓮に向く。


「最後。如月くん」


蓮は、深く息を吸って立ち上がった。


「一年の、如月蓮です」


全員の視線が集まる。


「今日から、書記として参加します」


一瞬、言葉に詰まりそうになるが、続けた。


「正直……不安もあります。でも」


拳を、軽く握る。


「ここで、自分にできることを全部やりたい。

逃げずに、最後までやり切ります」


頭を下げる。


「よろしくお願いします」


一拍の静寂。


そして、日向がぱっと手を叩いた。


「いいじゃん。真面目!」


三枝も、小さく頷く。


「……意気込みは合格」


黒崎は、少し安心したように微笑んだ。


自己紹介が一通り終わり、短い静寂が落ちる。


九条は席に座り直し、淡々と告げた。


「じゃあ、早速だけど――最初の仕事に入ろうか」


その一言で、空気が一段引き締まる。


三枝が、資料の束を机に置いた。


「今週末の校内行事。予算案の再確認と、当日の人員配置表」


ぱら、と紙が広げられる。


「如月くん」


「は、はい」


「この議事録、まとめ直して。

あと、ここの数字の整合性、見て」


いきなりだ。


日向も、椅子に寄りかかりながら口を挟む。


「連絡文の下書きもお願い。

敬語、崩れてたらやり直しね?」


「……了解です」


黒崎も、申し訳なさそうに。


「あの……その、資料の整理も、手伝ってもらえると……」


机の上は、あっという間に紙の山になった。


(……思ったより、容赦ない)


ペンを握る指に、力が入る。


数字、文章、形式、スピード。

どれも中途半端は許されない。


「ここ、計算合わない」


三枝の声。


「もう一回」


「すみません」


やり直す。


日向が、ちらっと覗き込む。


「遅いよ? 生徒会、時間との勝負だから」


「……はい」


胸の奥が、じわじわと苦しくなる。


――やっぱり、俺には無理なんじゃないか。


そんな考えが頭をよぎった、その瞬間。


(……違う)


夜遅くまで机に向かった日々。

誰もいないグラウンドで、ボールを蹴り続けた時間。

追いつくために、必死で積み重ねてきたもの。


(俺は、途中で投げたことはなかった)


背筋を伸ばす。


ペンを握り直す。


「……もう一度、確認します」


声は、震えていなかった。


三枝が、少しだけ目を細める。


「……いい」


日向が、にやっと笑う。


「へえ。食らいつくじゃん」


黒崎も、小さく頷いた。


九条は、黙ってその様子を見ている。


蓮は、必死に紙と向き合い続けた。


完璧じゃない。

でも、逃げない。


時間が過ぎ、生徒会室の時計が静かに針を進める。


「――今日はここまで」


九条の声が、区切りをつけた。


「初日としては、十分」


その言葉に、胸の奥が少しだけ熱くなる。


(……やれる)


蓮は、深く息を吐いた。


生徒会は、楽な場所じゃない。

でも――ここでも、俺は走れる。


そう、確信していた。

また読みたい!!続きが気になる!って人はこれからもぜひ応援してください

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