EP11 選んだ場所
生徒会室の前で、蓮は一度、足を止めた。
深呼吸をひとつ。
ノックをする音が、やけに大きく廊下に響く。
「……失礼します」
扉の向こうで、椅子を引く音がした。
「入って」
短く、整った声。
生徒会長・九条雅のものだった。
室内は静まり返っている。
九条は机の向こうで背筋を伸ばし、手元の書類を閉じた。
「如月くん」
視線が、まっすぐ射抜いてくる。
「部活の件。結論は出た?」
事務的で、感情の読めない声。
生徒会長としての顔だ。
蓮は一瞬、喉を鳴らした。
「……はい」
「聞かせて」
余計な言葉はない。
蓮は、腹を決めた。
「今日、サッカー部を辞めました」
九条の眉が、ほんのわずかに動く。
だが、表情は崩さない。
「……そう」
それだけ言って、視線を落とす。
「では、次」
淡々と、続けた。
「生徒会に入る意思は?」
この問いが、本題だった。
室内の空気が、ぴんと張り詰める。
蓮は、目を逸らさずに答える。
「あります」
はっきりと。
「正式に、生徒会に入ります」
一瞬。
九条の肩から、ふっと力が抜けた。
「……」
短い沈黙。
それから、ほんの小さく息を吐く音。
「そっか」
声の温度が、変わった。
張りつめていた厳しさが薄れ、
どこか安堵の混じった響きになる。
「ちゃんと、決めてきたんだね」
さっきまでの冷たさはない。
九条は椅子にもたれ、わずかに表情を緩めた。
「正直に言うと」
一拍、置く。
「まだ迷ってるんじゃないかと思ってた」
小さく、苦笑する。
「生徒会って、重たい場所だから」
蓮は、思わず息を吐いた。
張り詰めていた肩が、ゆっくりと下がる。
「……俺も、怖かったです」
「うん」
九条は、優しく頷いた。
「それでいい」
生徒会長ではなく、
一人の先輩の顔。
「歓迎するよ。如月くん」
机越しに、穏やかな視線が向けられる。
「書記として。
それから――仲間として」
「……よろしくお願いします」
深く、頭を下げる。
「こちらこそ」
九条は、少し照れたように笑った。
「これで、肩の力抜けるね」
その一言で、張り詰めていた空気がほどけた。
生徒会室は、さっきよりも静かで、
でも、どこか温かい。
蓮は思う。
ここからだ。
追いかける側でも、
奪う側でもない。
自分で選んだ場所で、
自分の足で立つ。
九条は、そんな蓮の横顔を見て、心の中で静かに呟いた。
――やっと、来たね。
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