EP1 幼馴染の裏の顔
幼馴染、、、いいですよね、私も中高同じ人がいて片思いしていた記憶があります。青春って尊い。
如月蓮は、ずっと走り続けてきた。
それはサッカーのピッチの上だけじゃない。勉強机に向かう夜も、誰もいない校舎の廊下を歩く朝も、すべては一ノ瀬紬の背中を追うためだった。
幼馴染の紬は、最初から特別だった。
整った顔立ち、誰にでも分け隔てなく接する性格、テストでは常に学年一位。運動神経も抜群で、教師からも生徒からも一目置かれている存在。
――隣に立つなら、同じ高さにいなきゃいけない。
その一心で、蓮は努力を重ねた。サッカー部では副キャプテンに選ばれ、学年成績は二位。周囲から見れば十分すぎる成果だ。それでも、紬を見るたびに胸の奥が少しだけ痛んだ。
あと一歩。いつか、その一歩が届くと信じていた。
あの日までは。
放課後、友達との罰ゲームで買い出しに行こうとしたとき、校舎裏で足を止めた。
聞き慣れた声が、聞こえてきたからだ。
「正直さ、如月くんって必死すぎない?」
紬の声だった。
心臓が、嫌な音を立てる。
「分かる。副キャプテンとはいえ、俺の影に隠れてる感じだしな」
答えたのは、サッカー部キャプテンの王堂司。
軽い笑い声が重なった。
「私に並ぼうとしてるのが見え見えで、ちょっと痛いんだよね」
視界が、にじんだ。
言い返す言葉も、飛び出す勇気もなかった。
努力が、否定された気がした。存在ごと、切り捨てられたような気がした。
――もう、何も信じなければいい。
そう思った瞬間、胸の奥がすっと冷えていくのを蓮は感じた。
校舎裏から立ち去ろうと、足を踏み出した、その時。
「ちょっと待って」
落ち着いた声が、背中にかかった。
振り返ると、そこにいたのは一人の女子生徒。
同じ制服だが、着こなしがどこか余裕を感じさせる。夕焼けを映す蒼い瞳が、まっすぐ蓮を見ていた。
「あの……今の、聞こえちゃった」
申し訳なさそうに眉を下げるが、声は穏やかだった。
「でも、噂話するためじゃないから。安心して」
蓮は一瞬、言葉を失い、視線を逸らす。
「……だったら、放っておいてください」
「うん。そう言われると思った」
彼女は苦笑しながら、校舎の壁にもたれかかった。
「でもね、後輩があんな顔してたら、先輩としては無視できないでしょ」
“先輩”という言葉に、蓮は思わず顔を上げる。
「……先輩?」
「そう。三年生。名前は――今はまだ内緒でいい?」
冗談めかした言い方に、張り詰めていた空気が少し緩んだ。
「如月くん、で合ってるよね」
名前を呼ばれ、驚く。
「サッカー部の副キャプテン。学年成績二位。努力家で有名」
「……なんで、そんな」
「先輩って、案外いろいろ見てるの」
彼女は軽く肩をすくめる。
「で、さっきの話」
少し真面目な表情になり、蒼い瞳が細められる。
「あれを真に受けて、自分まで否定する必要はないよ」
蓮は唇を噛みしめた。
「でも……無駄だったみたいで」
「無駄じゃない」
はっきりとした声だった。
「誰かに追いつこうとして頑張れる人はね、それだけでちゃんと強い」
彼女は一歩近づき、声を落とす。
「それに、比べられる場所まで来たってことは……もう十分すごいんだから」
夕焼けが二人の影を長く伸ばす。
「悔しいなら、悔しがっていい。先輩はそういうの、見逃さない主義だから」
少し照れたように笑う先輩に、蓮の胸が不思議と軽くなる。
「今日は、もう帰りな」
「……はい」
「また落ち込んだら、ここに来なさい」
彼女は校舎裏を指さした。
「先輩が話を聞いてあげる」
そう言って手を振り、夕暮れの向こうへ歩いていく。
名前を聞きそびれたことに気づいた時には、もう遅かった。
それでも蓮は、胸の奥に残る温かさを確かめるように、拳を握った。
――同じ空の下に、
もう一人、味方がいる。
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