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 ロイが出ていった直後、ひとりの客が店に入ってきた。

 

 紫がかった黒い髪に、金色の瞳。

 上品な身なりだが、少し野性的な空気を纏っている。

 得体のしれない――そんな印象だ。

 しかも、いつも客が来ると一斉にしゃべりだす本たちが、珍しく静かだった。

 この客の何かが、本たちを黙らせているのか。


「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」

 声をかけると、客人は一瞬驚いたように目を見開き、鋭い視線をむけてきた。

 獲物を値踏みするかのような眼光で見られたが、それは一瞬のこと。

 すぐにふっと表情を緩めた。

 

「見かけない顔ですね」

 訝しげに聞かれて、返答に困った。

 その時、奥から元気な声が飛んできた。

 

「ロイが雇ったんだよ」

 クララの言葉に客人は驚いたように目を見開いた。

「ロイが、人を雇った……? 珍しいですね」

 そう言いながら視線を店内へ巡らせる。

「なるほど。お店が妙に綺麗なのは、あなたのおかげというわけですか」

「それだけじゃないよ。キョースケは料理も得意なの。すっごく美味しいんだから!」

 クララが胸を張った。

 

 客人の表情が変わった。

 先ほどよりも驚いている。

 

「クララが食事を?」

 客人は口を押さえて、信じられないとばかりに首を振る。

「……それは興味深い。私も味わってみたいですね」

 途端に金色の瞳が好奇心で輝く。

「となれば、お近づきのしるしに占って差し上げましょう。私、こう見えて術者の家系なんです」

 そう言って、何故か力こぶしを見せるポーズをする。

 すると、袖口から、鍛えられた前腕がチラリとのぞく。

 細身に見えるが、筋肉が詰まっている――そんな印象だ。

 俺は、これから何を見せられるんだろう?

 

「この占い師の言う事は信じちゃダメだよ」

 すかさずクララが首を振る。

「エドの頭の中、筋肉だらけだから」

 エド――さっきロイが頼ろうとしていた術者だ。

 

「クララ、余計なことは言わないでください」

 エドはむっとしたが、その顔には優しさが滲んでいた。

 

「さあ、何を占いましょう。相談料は取りませんから、安心して何でも聞いてください」

 そう言いながら、懐からカードを取り出した。

 カードを切る手つきは素早いが、どこか粗雑な感じがしてしまう。

 

「えっと、じゃあ……旅の途中なんですが、無事に家に帰れるか、占ってもらえますか?」

 こんなことを占ってもらったところで、どうにもならないことは分かっている。

 それでも良い言葉を聞ければ、少しは希望が持てるかもしれない。


 エドは意気揚々とカードを切った。

 そして、器用にカウンターの上にカードを並べた。

「一枚、好きなカードを選んで下さい」

 伏せられたカードの真ん中あたりから、一枚引いた。


 そのカードを手に取ると、エドは眉間にしわを寄せた。

「ふむ……なるほど、そう来ましたか……」

 何か重大なことでも見えたのだろうか。

 なかなか結果を口にしないエド。

 胸の鼓動が変に早くなる。


「どうですか?」

 結果を聞くのは少し怖いけど、このまま聞かないのも気になる。

 しょせん占いだ。

 当たるとは限らない。


 そう覚悟を決めた時、エドが口を開いた。

「そうですね……帰れる時は帰れるし、帰れない時は帰れません」

「キャハハハッ!」

 クララの笑い声が店内に響いた。


 え――これが占い?

 何も答えられずにいると、エドはそそくさとカードをしまった。

「……私、実はカード占いは得意ではなくてですね、ハハハ……」

 エドが照れ笑いする。

「でも、召喚術は得意です」

「何が出てくるかはわからないけどね」

 クララが付け加えると、エドが軽く睨みつける。

「何か困ったことがあったら、力になりますよ。次は水晶で占いますので。カードよりは当たります」

 

 妙に誇らしげにそう言うと、エドは踵を返した。

 だが、数歩進んだところで立ち止まり、戻ってくる。

「ああ、そうだ、これを取り寄せてください。研究に必要なので」

 クララにメモを渡す。

 エドは軽く会釈をして店を後にした。

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