表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/12

8頁

 ロイの申し出で、この本屋で働かせてもらえることになった。

 主な仕事は、本棚の整理と食事を作ること。

 接客は、ほとんどクララがしてくれている。

 

 俺は乱雑に積み重ねられている本を、種類ごと本棚へ戻していた。

『うわさ話百選集』という本を手に取った。

 うーん、これはどの分類だろう。

 中を見ると、目次に『ニホンジンの血のうわさ』と書かれている。

 ページを捲ろうとした時――。


「あ~全然だめだぁ~」

 ロイの大声が店内に響いた。

 昨日「救出」した金庫と格闘しているらしい。

 天井を仰ぎ見て、完全にお手上げ状態だ。


 相変わらず左手に手袋をしている。

 昨日よりもぎこちないように見えるが――押したり引いたり回したり、懸命に金庫の開錠に取り組む姿を見ると、気のせいかもしれない。


「全く開く気配がない」

「外側からが無理なら、呪文とか?」

 俺の提案に、ロイは目を輝かせた。

「その手があったか!」

 でもすぐに眉間にしわを寄せる。

「呪文か……。となると、エドに力を借りないと無理か」

 

 この金庫の持ち主は相当用心深いのかもしれない。

 呪文となると、そう簡単には開かないんじゃないだろうか。

 でも、ロイにはあてにする人物がいるようだ。


 呪文で開く金庫――いったいどんな物が入っているんだろう。

「ねえ、何が入ってるの?」

 クララがワクワクした顔で聞く。

「黄金への道標さ。宝への地図、とでも言おうか」

 ロイの瞳が輝く。


 黄金と聞いて、俺の頭に真っ先に浮かんだのはアリババの話だった。

 確か、洞窟の扉を開ける呪文があったはずだ。

「開けゴマ」

 子どもの頃、ふざけて何度も口にした記憶が蘇る。

「開けゴマ? 何それ」

 ロイが俺の言葉にクスリと笑った。


「そうだよな、ほんと何回聞いても不思議な言葉――」

 その瞬間、微かな音がした。

 カタリ。


 金庫が、動いた。

 ロイが何をしても開かなかったそれが、ゆっくりと蓋を開き始める。

「えっ、ちょっと待って」

 自分でも何が起きたのか分からず、ロイと一緒に金庫を見つめる。

「キョースケって魔術師だったの?」

 クララが目をパチクリさせて聞いてきた。


「いやいやいやいやいや、そんなわけないよ。どこにでもいる平凡なサラリーマンだよ」

 特に劣っている事もないけど、特別に秀でている事もない。

 ごくごく普通の男だ。

 普通が服を着ていると言っても過言じゃない。


 まさか、俺の言葉で開いたわけじゃないだろ?

 偶然だ、偶然。

 確認せずにはいられない。

 

 今度は逆の言葉を。

「閉じろゴマ」

 すると、開きかけていた金庫が、閉じていく。

 マジか……。

「ちょっとちょっと、せっかく開きかけたのに何で閉じちゃうんだよ!」

 ロイが焦る。

「あ、えっと、なんだっけ? ゴマ、ごま、開けゴマ!」

 ロイが慌てて開く呪文を口にした。


 閉まりかけていた蓋が再び開く。

 自分で言っといてなんだけど、ホントに『開けゴマ』で開くとは思わなかった。

「ほんとに開くんだ……」


「よく分からないけど、開いたんだから良しとしよう」

 ロイが満足そうに金庫の中を覗き込む。

 俺は、自分の言葉で金庫が開いた事実に、まだ戸惑っていた。

 


 ロイが金庫から取りだしたのは一枚の小判。

 もっと貴重なモノ、『クレオパトラの涙』みたいな、そういった宝石を期待していた。

 だから、小判だけというのは拍子抜けした感がある。


 確かに小判は貴重かもしれない。

 でも、これを開くのに呪文が必要だなんて、複雑な仕掛けすぎる。

「変わった形の金の板?」

 ロイが小判を眺めながらつぶやいた。

 ロイもクララも初めて見るモノなのか、不思議そうに眺めている。


 俺も実物は初めてだけど、楕円形で表面に打目の跡があるこれは――どっからどう見ても小判だ。

「1枚だけ?」

 クララは空っぽになった金庫を覗いて、ほんの少し残念そうに眉を下げた。


 けれど、ロイはむしろ嬉しそうだった。

「言ったろ? これは道標さ。黄金への道を示してくれる。これがなきゃ辿り着けないんだ」


 ――え、これが?

 俺にはどう見てもただの小判にしか見えない。

 いったいこの小判がどう導いてくれるんだろうか。

 それより――ずっと引っかかっていた疑問を口にする。

「その、小判……持ち主に返さなくていいのか?」

  

 この金庫はロイが盗んできたものだ。

 本来なら、元の持ち主に返すべきじゃないだろうか。

 それに、この小判だって――。


「問題ないよ。もともと彼らだって、この金庫の『正当な持ち主』じゃないからね」

 ロイは小判を光にかざした。

「今頃、金庫がなくて大騒ぎしているだろうけどね」

 ロイは悪戯っぽく口元をゆるめた。

「黄金争奪戦は既に始まっている」

 冒険の前触れを楽しんでいるかのように、ロイの目が輝く。

「僕が勝つか奴らが勝つか。はたまた別の誰かか」

 ロイの手元で小判がキラリと光った。

 何かを思いついたのか、ロイは金庫に小判をしまった。


「金庫も開いたことだし、僕ちょっと出かけてくる」

 そう言うと、ロイは金庫を持ってどこかへ出かけてしまった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ