表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

7頁

「おかえり!」

 クララが嬉しそうにロイに駆け寄った。

「キョースケが作ったんだよ!」

「おかえりなさい。キッチンお借りしました」

「どうぞどうぞ。僕まったく使わないからいいんだけど、不便じゃなかった?」

 ロイは嫌な顔ひとつせず、むしろ使い勝手を心配してくれた。


 全く使わないという割には、道具は充実していたし、整理整頓もされていた。

 俺の家のキッチンより、よほど使いやすかった。

「ロイは料理できないの」

 クララが小声で教えてくれる。

 どうりでキッチンが綺麗なわけだ。

 クララの声が聞こえたのか、ロイは少し拗ねた顔をした。

「できないんじゃなくて、僕には不向きだってだけ。それより、僕もそれ食べたいんだけど、僕の分はある?」

「もちろん」

 ロイの分として取り分けておいたチャーハンを差し出した。

 持っていた四角い何かを机に置き、丸い椅子を部屋の隅から引っ張ってくる。


 右手の手袋を外し、ロイはひと口食べて目を見開いた。

「うわ、美味しい! ……君、料理上手だねえ」

「ありがとうございます。そんな大したものじゃないですけど」

「いやいや、これだけ美味しければ十分すごいよ」

 本当に幸せそうに食べてくれる。

 ロイの口に合ってよかった。


「でしょでしょ! 初めて味覚があってよかったって思えたもん。食事って、こんなにワクワクするんだね」

 チャーハンを作っただけで、こんなに褒められるとは思わなかった。

 なんだか気恥ずかしい。

 それにしても、味覚があってよかったって、どういう意味だ?

 疑問が解決されないまま、会話は進んだ。


「クララが食事をするのは何年ぶりだろう」

 ロイがとんでもないことを口にしたが、クララは平然と答える。

「ロイがお豆を焦がした時から食べていないかな、十年以上前だよ」

「十年以上!?」

 思わず声が出た。


 十年以上、食べてない?

 それで生きてる?

 頭が混乱する。

 クララって……何歳?

 七、八歳だと思っていたのに、十年以上前から――?

 俺の疑問は置き去りに、会話は続いた。


「ああ、そうそう、それで僕には料理が不向きってはっきりわかったんだ」

「クララはね、ご飯食べなくて大丈夫なの!」

 俺が何かを言いかけたのが分かったのだろう。

 クララが得意げに笑っている。

「でも、キョースケのご飯ならずーっと食べられちゃう」

「あ、ありがとう」

 褒められて嬉しいけど、話の内容は半分くらい理解できていなかった。

 この世界の常識が違う事には気づいていた。

 でも、『生き物』の摂理まで異なるとは、思いもよらなかった。


「ね、キョースケ、明日も作って!」

 クララが無邪気な笑顔を向けてくる。


 作るのはいい。

 でも、そんなに長く世話になっていいんだろうか。

 迷惑じゃないだろうか……。

 そう考えていたら、ロイがポンと手を打った。

「キョースケくん、君、ここで働かない?」

「やったー! そしたら毎日ご飯作ってもらえるね」

 まだ、返事もしていないのに、クララは両手を挙げて喜ぶ。


 路頭に迷っている俺からしたら、これはかなりありがたい誘いだ。

「でも……」

 口ごもると、クララの表情がさっと曇った。

「キョースケ、ここで働くのイヤ?」

「イヤとかじゃなくて、その……申し訳ないっていうか」

 言葉が続かない。

「お世話になってばかりで、俺、特技とかないし……」


 ……あれ? 俺、何言ってるんだ?

 クララの悲しそうな顔を見て焦ったせいか、自分でも何を言っているのかわからなくなってしまった。

 そんな俺を救うように、ロイが柔らかい声で言った。

「本の整理してくれたのってキョースケくんでしょ? 本たちが喜んでたよ。僕は料理と片づけが苦手なんだ。まあ、他のことは完璧なんだけどね」

 ロイが少し恥ずかしそうに、でも自信ありげに笑った。

「店も人手が欲しくてね。クララも助かるだろうし。だから、頼むよ。次の行き先が決まるまででいいからさ」

 次の行き先――帰る方法が見つかるまで、ここにいられる。

 しかも、ロイの役にたてるなら。

「俺でよければ、お願いします」


「やったぁー! じゃあさ、今日の夜は何を作ってくれるの?」

「えっと……オムライスでいいですか?」

 確認のつもりで聞くと、ロイは首を振った。

「もう君は家族も同然、僕のことはロイでいいよ。それに、もっと気さくにしゃべってほしいな。クララと話すみたいにさ」


 改めて言われると、ひどく照れくさい。

 けれど、嬉しかった。


「ロイ……オムライス、食べるよね?」

 呼び捨てにするのは妙に緊張したけど、ロイは力強く頷いた。

「もちろん。オムライスか、どんな料理かワクワクするな」


 ロイの左手――手袋をしたまま、ぎこちなく動いている。

 ケガでもしているんだろうか。

 でも、俺が口を開く前に、話題はもうロイの持ち物へと移っていった。


 「ねーねー、それなあに?」

 クララがロイの持ってきた四角い箱を指差す。


「あ、これ? 金庫」

 ロイが銀色の箱を机の上にドシンと置いた。


 金属の鈍い光を放つ、重厚な金庫だ。

「金庫? 何が入っているの?」

 クララが目を輝かせる。

「ね、早く開けて見せてよ!」

 クララがロイにせがんだ。


「それがさ、なかなか開かなくて。その場で調べてる時間もなかったから、とりあえず持ってきちゃったんだけど……どうやって開けるんだろう」

 ロイは金庫を上から横から斜めからと、いろんな角度から眺めまわす。


 ダイヤルもない。

 鍵穴もない。

 ボタンも液晶画面もない。

 ただの銀色の塊にしか見えない。

 言われなければ、これが金庫だとは気づかないだろう。


 もしかして、からくり箱みたいな仕掛けなのかもしれない。

 特定の手順で動かさないと開かない、というやつ。

 開け方を知らなければ、どうにもならない。

 

「開け方、忘れたの?」

 俺が聞くと、ロイはあっさりと首を振った。

 

「いや、これ僕のじゃないから」

「……は?」

 一瞬、理解が追いつかなかった。


「あれ? 最初に言わなかったっけ? 開けられないから持ってきちゃったって」

 そういえば、そんなこと言ってた気がするけど……。

 まさか、ロイの物じゃないなんて――思いもしなかった。


「持ってきたこと、ちゃんと持ち主に断ってきた?」

「断るわけないだろ? そもそも黙って建物に入ってるんだから」


 ロイはサラッととんでもないことを口にした。


「それって……」

 泥棒じゃないか。

 ここって、もしかして隠れ家?

 

 一瞬『怪盗Я』が頭をよぎる。

 新聞に載っていた『眠り姫の夢時計』……やっぱり盗んできたものだったのか。

 

 急に不安が押し寄せてきた。


「どうかした?」

 ロイは全く悪気がない様子。

 まさか……。

「ロイって、もしかして泥棒?」

 思わず言葉が口から出ていた。


 まずい、と思って口を押えたが、ロイはニッコリ笑った。

「やだなぁ~。そんな無粋な言い方しないでよ」

 ロイはひらひらと手を振った。

「僕は探検者さ。スリルと未知なる謎の解明が大好物でね」

 目を輝かせながら続ける。

「夢と希望が詰まっているだろ? ロマンじゃないか」

 金庫を軽く叩きながら言い足した。

「それに、これは盗んできたんじゃないよ。救出したんだ」

「でも、ロイはお宝も大好きだよね」

 クララが、追い打ちをかける。

「……否定はしない!」

 ロイが胸を張る。

「スリルとお宝が僕を呼んでいる!」


 どうしよう。

 今更だけど、俺、ここに居て大丈夫なのか?

 ……でも、ほかに行く場所もない。

 仕方ない――か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ