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ある程度片付いてきたところで、グルルと腹が鳴った。
そういえば昨日の夜から何も食べていない。
気が張っていたからなのか、今の今まで空腹すら気にならなかった。
ズボンのポケットから財布を取り出し中身を見た。
給料日前で財布の中は寂しい。
五千円と小銭が少し。
日本なら十分だけど、この世界では使えないだろう。
さっき紳士が出したのは、見たこともない紙幣とコインだった。
いつの間にか、クララが隣に立っていた。
財布を覗き込んでくる。
「それお金?」
「え? うん」
嘘をついても仕方がないので、正直に頷いた。
「へぇ~。面白い形だね。でも、ここじゃあそれ、使えないよ」
やっぱり使えないか。
さて、どうしようか……。
「ねえ、キョースケは『お料理』ってできるの?」
目をキラキラさせてクララが聞いてきた。
独り暮らしで自炊が多い。
だから、多少の料理ならできる。
「出来なくはないけど……」
ただ、人に食べてもらうのは初めてだから、自信はない。
けれど、俺の答えにクララの顔がパッと輝いた。
「ホントに? すごい!」
そして、何か思いついたような顔をする。
「あ、そうだ! ちょっと待ってて!」
言うなり、店を出ていこうとした。
「ど、どこに行くの?」
「すぐ戻ってくるから!」
「待って! お客さん来たらどうしたらいい?」
情けないが、ひとりで対応できる自信がない。
小さな子でも、いてくれるだけで心強い。
それなのにクララは心配はいらないよ、とばかりに笑顔を浮かべる。
「大丈夫だよ。来ないから!」
そう言うと、クララは店を出て行ってしまった。
来ないと言われても不安はそう簡単に拭えない。
数分後、クララが戻ってきた。
両手いっぱいに荷物を抱えている。
「これだけあれば、何か作れる?」
クララが持ってきたのは、野菜や肉らしき食材。
でも、どれも見たことがない。
「チャーハン……かな」
「ちゃーはん……、どんな料理だろう。楽しみ!」
嬉しそうに笑うクララ。
でも、クララが持ってきた食材を見て、一気に不安が押し寄せてきた。
見たことのない食材ばかりだ。
はたしてこの食材でチャーハンが作れるだろうか。
でも、クララの期待に満ちた目を見ると、断れない。
「クララも手伝ってくれる?」
「うん!」
クララが満面の笑みで答えた。
クララはスキップしそうな勢いで、俺をキッチンへ案内した。
ここも他の部屋と同じく、上品で高級感がある。
装飾もこの世界特有のものだ。
けれど、他の部屋と明らかに違った。
どれもこれも新品同様で、使われた形跡がない。
「はやくつくってみて」
クララが期待のまなざしを向けてくる。
プレッシャーを感じながらも、キッチンに立った。
「えっと……チャーハンだよね」
「うん」
クララが持ってきた食材を改めて見るが、知らない食材ばかりだ。
まずはニンジンをみじん切りに――って、ニンジンはどれだ?
オレンジ色で細長いものを指差した。
「ねえ、クララ。これって何?」
「切ると目が染みる野菜」
なるほど、玉ねぎか。
「じゃあ、これは?」
丸くて紫色の食材を指差した。
「耳の長い動物が好きな野菜」
ああ、ニンジンだな。
形は違ったが、似たような食材はあるらしい。
黒い玉ねぎ、黄色いネギ。
肉は、見た目はふつうだが、何の肉かは――聞かないでおこう。
知らないほうが幸せなこともある。
正式な名前もあるらしいが、舌を噛みそうな発音だった。
覚えられる気がしない。
それより、肝心なものを忘れていた。
チャーハンには米が必要だ。
けれど炊飯器は見当たらない。
今から炊いていたら時間もかかる。
「米はある? 冷や飯でいいんだけど……」
果たしてこの世界に『米』があるかは疑問だけど……。
クララはガサゴソと紙袋を漁った。
出したのは、真空パックになっているご飯だった。
それはこっちの世界でも同じ見た目をしていた。
「これでいい?」
不安そうな顔をするクララ。
「完璧だよ。これでチャーハンが作れる」
クララの顔がパッと明るくなる。
「よし、作ろう」
こんなに気合を入れてチャーハンを作るのは初めてかもしれない。
でも、クララの顔が輝いたので、やる気が湧いてきた。
食材を切っているだけなのに、クララは歓声を上げる。
まるでマジックショーでも見ているかのようだ。
なんだかプロの料理人になった気がしてくる。
食材を見た時は不安だった。
でも、意外にも出来上がってみれば、見栄えは悪くない。
「味見してみる?」
「うん」
スプーンでひと口分すくってクララに渡す。
クララはふうふうと息を吹きかけてから、口に入れた。
「どう?」
急に緊張してきた。
「……」
もぐもぐもぐ……。
クララは黙ったままだ。
あれ?
不味かったかな。
その瞬間、クララがバンバンと俺の腕を叩いてきた。
「すんごい、おいしい!」
満面の笑みを浮かべるクララ。
その笑顔に、ホッと胸を撫でおろした。
「良かった。じゃ、お皿に盛ろうか」
「うん!」
クララがセッティングしてくれたテーブルに、山盛りのチャーハンを並べた。
「いただきまーす」
クララはそう言うなり、勢いよくチャーハンを口に入れた。
クララと一緒にチャーハンを食べていると、キッチンのドアが開いた。
四角い何かを抱えたロイが入ってくる。
「なんかいい匂いがすると思ったら君たちか」




