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「小判に書かれた呪文って?」
クララが首を傾げた。
ロイが頷いて、懐から小判を取り出した。
コツコツと小判を叩くと、カチッと音が鳴りホログラムが浮かび上がる。
「うわぁ」
クララが歓声をあげた。
「あ、ほら、ここ。なんて書いてあるんだっけ?」
ロイが石板に書いてある文字を指差した。
「灰から咲き誇る――」
石板の文字を読み上げた時。
「あ、ちょっと待ってください、今メモしますから……もう一度、いいですか?」
エドは慌てたように手を叩き、水晶玉から紙とペンを出した。
俺はゆっくりと石板の文字を読み上げた。
「灰から咲き誇るその花は、我らの象徴であり、春の訪れを知らせるもの。足元には眠るものありと謳われるが、真実は誰も知らない」
それを聞いたクララは、ちんぷんかんぷんといった顔をした。
ロイも全く意味が分からないみたいで、顎に手を置き、うーんと考え込んだ。
エドは、書き記した文章をかみしめているようだった。
「これって遺跡を見つける目印のことだと思うんだけど、さっぱり意味がわからない」
ロイはお手あげという風に手を上げた。
それに同調するようにエドが深く頷いた。
俺にもさっぱり意味が分からない……けど、何かが引っかかる。
灰から咲き誇る、春の訪れ……これってもしかして――。
昔話に出てくるアレのことか?
加えて足元に眠るものあり、とくれば、やっぱり思い浮かべるのは……。
「桜だ!」
思わず叫んだ俺を、三人が一斉に見つめてきた。
「……だと思うんだけど」
急に不安が押し寄せ、小声で言葉を付け足す。
「サクラって何?」
首をかしげるクララ。
「サクラとは?」
不思議な顔をするロイ。
「サクラというのはどういうものですか?」
興味津々のエド。
思ってもみなかった反応に戸惑う。
三人とも、本当に桜を知らないのか。
桜。
バラやチューリップと同じくらい、植物に詳しくなくても誰もが知っている花だと思っていた。
だから三人が『桜』を知らないことに驚いたが、すぐに納得した。
この世界では玉ねぎやニンジンの姿かたちすら全く違うのだから、桜を知らないのは当然といえば当然だ。
「桜というのは、春になると花が咲くんだけど……」
また三人とも首を傾げる。
「灰の中から花を咲かせるの?」
クララが疑問を口にすると、それに対してロイが新たな疑問を口にする。
「木を燃やすのか?」
「灰になった木から花が咲くんですか?」
エドが二人の疑問をひとつにまとめた。
「違う違う。灰をまくと花が咲くっていう昔話があるんだ。実際は春にしか咲かないよ」
この説明に、クララとロイが首をかしげた。
エドはうーんと何やら考え始めた。
まさかとは思うが……。
「ハルとは何ですか?」
エドのその言葉で確信した。
やはり、この世界には春夏秋冬がないんだ。
バラのような派手さはないけれど、花開くと心が浮き立つ、桜。
桜は日本人が最も好きな花といっても過言じゃない。
春になれば、スギ花粉と同じくらいに日常の会話に入り込んでくる。
ニュースやワイドショーで、連日開花予想までするのは、おそらく日本だけだろう。
だから、桜を目印にする発想は理解できる。
でも、季節がないこの世界で桜はいつ咲くんだろう。
自慢じゃないが、花を咲かせていない桜の木を探すことは、俺にはできない。
じゃあ、どうやって桜を探す?
「花が咲いてないと桜ってわからないかも……」
ぼそりと呟いた俺の言葉に、即座にクララが反応する。
「こんなにすごい仕掛けを作れるんだから、きっと花をずっと咲かせることもできるよ!」
クララの言葉にロイが大きく頷いた。
「確かに。ニホンジンを導くための目印なら、ずっと花が咲き続けているかもしれない」
「枯れない花も確かに存在しますし……」
エドがメモを取った紙を見つめる。
「でも、必ずしも『実物』がそこにあるとは限りませんね」
「どういうこと?」
クララが小首をかしげる。
「つまり、幻影や魔術的な映像、あるいは――」
エドが説明しようとした時、ロイが軽く手を叩いた。
「ここで考えていても仕方ない。行けば分かるさ」
そう言うと、ロイは立ち上がって胸を張った。
「とりあえず、遺跡までは僕が案内するよ」
あまりにも楽し気なロイの姿に、緊張や不安が薄れていく。
何とかなるんじゃないか――そう思えてくるから不思議だ。




