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 小判にこんな仕掛けが施されていたなんて――。

 ロイはいつこの仕掛けに気づいたんだろう。

 

 ロイが得意げな顔をした。

「すごいだろ」

「ええ、すごいです。もっとよく見せてください」

 エドはかぶりつくように見つめた。

「あ、ここに模様……いや、文字が書かれています」

「え? どこ?」

 得意げな顔をしていたのに、ロイはそれには気付いていなかったようだ。

 

「あの文字です。どんな研究者でも解読出来なかった文字」

 エドの言葉に、ロイが慌てて石板を覗き込む。

「ホントだ。これ……あの本と同じ字だ。キョースケ、なんて書いてあるか読んでみてよ」

 石板を覗いた瞬間、飛び込んできたのは日本語の文字だった。

 

「えっと……『灰から咲き誇るその花は我らの象徴であり、春の訪れを知らせるもの。足元には眠るものありと謳われるが、真実は誰も知らない』……って書いてある」

 文字を読んだ俺の顔を、エドがまじまじと見つめてきた。

「な、何か俺の顔についてる?」

 思わず顔をこする。

 ロイが笑った。

「この文字、今まで誰にも読めなかったんだ。それをキョースケがスラスラ読んだから、びっくりしているんだよ」

 ロイの言葉を肯定するように、エドは興奮気味に頷いた。

「すごいですッ! この仕掛けもさることながら、謎の文章も、研究者魂をくすぐられますね」

「だろ? 遺跡にはこんな仕掛けが山ほどある。しかも別の世界への道も」

「べ、別の世界って……」

 エドが俺を見た。

「キョースケくんは、そちらの住人?」

「ええ、まあ」

 頷くと、エドは目を丸くした。

 何かを言いかけて、首を振る。

 そして――顔を背けた。

「……って、でも、行きませんからね!」

 一筋縄ではいかないエド。

 

 でも、エドの扱いには慣れているのか、ロイが言葉巧みに誘う。

「難解な仕掛けを解くには、優秀な術師が必要なんだけど……」

 ロイがわざとらしく首を振る。

「そっかあ~。エドには無理かぁ~」

 ピクリとエドの眉が動いた。

「無理だとは言っていません。危険なので行かないだけです。私はロイと違って無鉄砲ではありませんから」

「危険? それは冒険には必要不可欠なスパイスだよ。安心安全な道なんて、そこら辺を散歩するのと一緒じゃないか。そんなのつまらないだろ?」

 ロイが意気揚々と語る。

「幾重にも仕掛けられた罠、本の謎、小判のからくり、こちらの世界と違う世界をつなぐ道、これまで誰も目にしたことのない景色が見られるんだ。こんなチャンスは二度とないぞ」

 意地悪な笑みを浮かべるロイ。

「それとも、古の術はエドには荷が重い?」

 

 エドの目の色が変わった。

「荷が重い? 冗談は止めてください。どんなに難解な術であろうと解けない術式などありませんから」

 少し怒ったように声を張るエドに、ロイが畳みかけるように口を開いた。

「僕にかけられたこの呪い、すごく興味を持っていたよね。遺跡に行けばその解き方も分かるんだ。それに、この間新しく編み出した術式を試してみたいって言ってなかったっけ? 遺跡で試してみるのもいいんじゃないか?」

 次第にエドの表情が明るくなっていった。

「それにこれは人助けでもあるんだ。キョースケを元の世界に戻す手伝いをしてくれないか?」

 ロイの言葉は、さながら悪魔のささやきのようだ。

 

 ふうと深い息を吐いたエドは、背もたれに寄り掛かると腕を組んで目を閉じた。

 数秒の沈黙。

 やがて、口を開く。

「いいでしょう……その話、乗ります。私もね、呪いに関してずっと気になっていたんです。人を呪わば穴二つ。解呪に条件があり、なおかつ継続的な根の深い呪いなんて、そう簡単にかけられるものではありませんし、姿を変え入り口を隠す遺跡などめったにありませんからね。しかも人助けとあっては断る理由はありません」

 ロイが人知れずガッツポーズをした。

「よし、決まりだ。出発は明日。準備ができたら僕の店へ」

「了解です。ではさっそく準備にとりかかりましょう」

 え? 明日?

 悠長なことを言っていられないのも分かるけど、今、エドが行くって決まったばかりだ。

 心の準備が追いつかない。

 それなのに渋っていたはずのエドのフットワークは軽い。

 

 エドがパンパンと手を叩く。

 その瞬間、あちこちから歯車の音が響いた。

 すると、壁にかかっていた絵が消える。

 棚やテーブルが、吸い込まれるように壁へと沈んでいく。

 気づけば、建物の中ではなく、路地の一角に立っていた。

 そして、エドの手のひらには水晶玉がひとつ。

 その中で先ほどのテーブルや棚がぐるぐると回っていた。

 

 どういう仕掛けなのか聞いたところで理解できるわけもなく、とりあえずそういうものなんだと割り切って頭の隅に追いやった。

 いちいち気にしていたら、ここでの生活は成り立たない。

 ロイも気にする素振りさえ見せないところをみると、これが日常なのだろう。

 

 ひとつ納得したところなのに、さらに戸惑うようなことをエドが聞いてきた。

「ところでクララは留守番ですか?」

「まさか! クララも行くよ」

「それは心強いですね」

 その安心感が俺にはいまいち理解できない。

 いくらロイが危険回避能力に長けていても、エドが優秀な術師であっても、クララはまだ幼い。

 生還者がいない遺跡に連れて行くなんて、危険すぎる。

「あの! クララは連れて行かないほうがいいんじゃ……」

 ロイが人差し指を立てて俺の言葉を遮った。

「クララが居なきゃ僕たちはすぐにあの世逝きだよ。まあ、行ってみれば分かるよ」

 心配する俺の肩を、ロイがポンポンと叩いた。

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