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「こちらへどうぞ」
エドが別室へ案内してくれる。
部屋は簡素だけれど、調度品は品があり、高級感が漂っている。
さっきのテントの胡散臭さとは対照的だ。
促されてロイが椅子へ腰を下ろし、俺も隣に座る。
「すまないね」
ロイが申し訳なさそうに言うと、呆れたように首を振るエド。
「本当に反省してます? さっきの連中、ものすごい剣幕であなたの居場所を探していたんですよ。何をやらかしたんです?」
言いながら、エドはパンパンと手を叩いた。
すると、ティーセットが空中にふわりと現れる。
ポットが傾き、青い湯がカップへと注がれていく。
あっという間に机の上に整然と並んだ。
「さあ、どうぞ」
カップの中で青い液体がゆらめく。
見慣れない色に一瞬躊躇するが、隣を見るとロイはすでに美味しそうに飲んでいる。
散々走って、喉はカラカラだ。
ありがたくいただく。
すると、ハーブの香りが口の中に広がる。
じんわりと、身体が潤っていくようだ。
ロイはハーブティーに砂糖をひとつ入れ、スプーンでクルクルとかき混ぜる。
ひと口飲んだ後に、大きくため息をついた。
「まったく、しつこくてイヤになるよ。まさかエドのところにまで来てるとは思いもよらなかった」
「最初ロイの事をあれこれ聞いてきたんですよ」
エドが少し顔をしかめる。
「でも、こちらが知らないと答えたら、今度は私の事を勧誘してきましてね。あの手の連中は平気で裏切りますから、丁重にお断りしました」
エドが再び手を叩くと、今度はクッキーが空中からふわりと現れる。
「どこから見ても胡散臭い占い師にしか見えないだろ? でも、エドは見た目と違って術師としては凄腕なんだ」
ロイはクッキーをひとつ口へ放り込んだ。
「胡散臭いは余計です」
エドが睨みつけた。
「とはいえ、占い師は多少怪しげなほうが商売になるんです。見た目は重要です」
そう言うと、エドは怪し気に指を動かしてみせた。
いかにも占い師らしい仕草だ。
「それより、ロイ、今度は何を企んでいるんですか?」
エドが疑わしげに尋ねる。
「あなたが以前行った遺跡の門はいつ開かれるのか、ニホンジンはいつどこに現れるのか占えってうるさいのなんの」
肩をすくめるエド。
ロイが興味深そうに身を乗り出した。
「で、占ってあげたの?」
「ええ、一応これで生計を立てていますから」
「結果は?」
ロイがたずねると、エドは当然のように手を差し出した。
「え? まさか僕からお金を取るの?」
「商売ですから」
「いいさ。エドに占ってもらわなくても、僕はもう知っているから」
ふふんと、胸を張るロイに、エドは悪戯っぽく口角を上げる。
「なるほど。その反応、私の占いもあながち間違っていないということでしょうか」
「じゃあ、答え合わせをしようか」
「いいでしょう。では私から。遺跡の門は近々開かれます。そして、ニホンジンはすでに現れています。しかもロイ、あなたはそのニホンジンと出会うでしょう」
ヒューと、ロイが口笛を鳴らした。
「驚いたな。エドの占いも時には当たるんだね」
何気なく酷い事を言うロイ。
でも、エドは特に気にしている様子はない。
それどころか、妙に誇らしげだ。
「本当なんですね?」
弾む声に、ロイの表情がふいに変わる。
真剣そのものだ。
「今の話、どこまで奴らに話した?」
エドが怪訝そうに眉を寄せる。
「門が開くこと、ニホンジンが現れること。それだけです」
「本当にそれだけ? 僕がニホンジンに出会うってことは?」
ロイの探るような視線に、エドは気分を害したのか口を尖らせた。
「言うわけないでしょ。友人を売るほど薄情じゃありません!」
怒りを露わにするエド。
ロイは慌てて手を振った。
「違う違う。ただ確認しただけさ。なにしろキョースケの安全に関わることだからね」
「まさか……」
エドが驚いたように俺を見た。
「そのまさかさ」
ロイが頷くと、エドがゴクリと息を呑む。
「さっきの連中、ロイの店で『血の石』を見たヤツがいるって騒いでいたけど――」
俺はポケットから石を出して、エドに見せた。
「たぶん、これのことだと思う」
エドはルーペを取り出し、食い入るように石を見た。
「すごい…‥本物だ。おとぎ話だと思っていたのに。なるほどね。こりゃあ奴らが躍起になって探すわけです」
エドは石と俺を交互に見た。
「まさかキョースケくんが……。そうだ、ロイ、君の店。もっとガードを固くした方がいいんじゃないですか?」
「それなら大丈夫。すでにクララに頼んである」
ロイの言葉に、エドはホッと息を吐いた。
そして、ゆっくりとハーブティーを口に含んだ。
「驚くのはまだ早いぞ」
ロイが目を輝かせて口を開いた。
「遺跡は三日後の満月の日に門が開く」
ロイは指を折りながら続ける。
「必要なのは三つ。道を示す小判、謎を解く方法が記された本。そして、遺跡に入ることを許された唯一の存在――ニホンジン」
ロイがほほ笑む。
「全てが揃った。もう、遺跡へ行くしかないだろ?」
そして、エドを見つめる。
「そこでだ。エド、君にも一緒に来てほしいんだ」
エドが飛び上がるように驚いた。
「と、とんでもない! ロイの左手のこと、私が知らないとでも? 私は絶対に行きませんよ。ロイが戻ってこれたのは奇跡に近いんですから」
ブンブンと、首を振るエド。
「僕が入ったのは、ほんの入り口だ。でも、次はもっと深層に――」
「尚更危険じゃないですか!!」
きっぱり拒否するエド。
「私は絶対に行きません」
プイっと横を向いてしまったエドに、ロイが探るように訊ねる。
「本当にそれでいいのかい?」
ロイがポケットから小判を出し、机の上に置いた。
「あ、それ! さっきの連中が血眼になって探しているヤツじゃないですか! 盗まれたって言ってましたけど――」
「シー……。それは今は置いといて。それよりこれを見て」
ロイは小判を人差し指でコツコツと叩いた。
カチッ――何かがハマる音。
次の瞬間、小判から青白い光が立ち昇った。
ホログラムのように光が形を成し、石板のようなものが宙に浮かび上がる。
「すごい……。なんですか? これは」
術でお茶やクッキーを平然と出すエドでさえ、息を呑んだ。




