表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/14

13頁

「キョースケ、こっちだ」

 ロイの声が路地裏に響く。

 呼吸が荒く、胸が焼けるように痛い。

 ロイは早歩きどころか、スキップのような軽快さで先を行く。

 俺は小走りで着いていくのがやっとだ。

 

 エドの家に向かう途中、背後に纏わりつく気配にロイが気付いた。

 そこから逃走劇が始まった。

 幅の狭い路地を、右へ左へと曲がりながら進む。

 まるで迷路に入り込んだようだ。

 

 背後で空気が裂ける鋭い音がした。

 振り返るより早く、拳大の金属の塊が俺の耳元をかすめていった。


「ヒャッホー! イェーイ!」

 ロイが叫ぶ。

 遊園地のアトラクションを楽しんでいるかのようだ。

 俺はとにかく必死で、ギリギリかわしていたが、生きた心地がしなかった。

 

「なんとかまけたかな」

 ロイが後ろを振り返って確かめる。

 俺は上がった息を整えるのが精一杯で、周りを気にする余裕すらなかった。

 

「遠回りになったけど、たまにはこんなスリルもいいものだね」

 どこがだ!

 心臓はまだ喉の奥で暴れているし、あと数センチずれてたら俺は木っ端みじんだぞ!

 言い返したかったけど、しゃべることすらままならない。

 そんな俺を見て、ロイが笑った。

 

「キョースケはもっと体を鍛えた方がいいな。こんなんで息が上がってたら、さらなるスリルを味わえないぞ」

 確かに体は鍛えた方がいいとは思う。

 でも、これ以上のスリルは味わいたくない。

 俺は平凡に生きていけたらそれで満足だ。

 ……いや、待てよ。

 この世界に来た時点で、もう平凡ではなくなってる。

 それに気づいて、言葉を飲み込んだ。

 

 さらに角をひとつ曲がったところでロイが立ち止まった。

 目の前に、テントのような建物があった。

 見るからに怪しげだ。

 ロイはためらいもなく幕をめくり、中に入った。

 

「エド、君に頼みたいことが――」

 ロイの足がピタリと止まった。

 口元に指を当て、俺の耳元で囁く。

「そのソファの隅に。早く!」

 ロイに押し込まれるように身を隠す。

 直後、荒々しい怒号が室内に響いた。

 

 ガチャリ。

 勢いよくドアが開く音。

 心臓の音が耳の奥で爆音のように響く。

 思わず息を止めた。

 

「――我々に従わなかったこと、いずれ後悔する時が来るぞ」


 ガラの悪い男が、取り巻きを二人従えて出ていく。


「占い師風情が……。今に目にもの見せてやる」

 そう吐き捨てると、男たちはドスドスと足音を立てテントを出て行った。

 

 さっきまでの喧騒が嘘のように静かになると、のんびりとした声が聞こえてきた。

「もう出てきても大丈夫ですよ」

 その言葉を聞いて、ロイがソファの影から出た。

 ロイの姿を見るなり、この家の主人であるエドが軽く睨みつけた。

 

「いや〜危なかった。エドが合図をしてくれなければ、鉢合わせするところだったよ」

 合図?

 そんなものがあったのか?

 と思いながら、ロイに続いてソファの陰から出た。

 

「おや、君も一緒でしたか。だったら余計にこれを貼っておいて良かった」

 

 エドが壁に軽く触れる。

 布のように見えた壁面が水面のようにゆらめいた。

 青白い文字列が浮かび上がる。

 次の瞬間、それらの文字がはがれるように一枚の紙へと収束し、宙にひらりと舞った。

 それには『招かざる客来たれり、入るべからず』と書かれていた。

 ロイには見えていて、悪党たちには見えなかった――つまり、エドに許された者だけが読める仕掛けなのだろう。

 エドがパチンと指を鳴らすと、ぼわっと青い炎があがった。

 その炎は一瞬にして消えてしまい、灰すら出さず、跡形もなく消えてしまった。

 

 エドは少し考えるように顎に手を当てた。

「今日はもう店を閉めた方が良さそうですね」

 エドがもう一度パチンと指を鳴らした。

 

 すると、今度は先程入ってきたテントの幕が扉に変わり、ガチャンと鍵が閉まる音が響いた。

「そういえば自己紹介がまだでしたね。私はエドバン・フォン・モートン。エドと呼んでください」

 そう言って手を差し出してきたので、慌てて握り返す。

「司波恭介です」

「珍しい名前ですね。そういえば旅をしていると言っていましたね」

「ええ、まあ」

 言葉を濁す俺に少し首を傾げたけど、エドはそれ以上追求しようとはしなかった。

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ