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第七話 ついに、推しに見つかる


 ついに、シオンはあの娘の情報を得た。騎士団の情報網を舐めてもらっては困る。


『アメリー・セレーネ。緋色の髪。平民街の雑貨屋の娘で、父親の手伝いとして騎士団にも届け物を何度か行う。王都の中心部や市場に姿を現し、何らかの情報を集めているような行動を取る』


「アメリー・セレーネ……」


 彼は執務室で報告書を読み、深く息を吐いた。これらの情報からも、間違いなく、彼女が彼に贈り物を送っていた本人だろう。


 やはり彼女が平民であるため、騎士団長である彼と接触することに恐れや負担を感じているのであろう。彼と関わることで、彼女の生活が脅かされることを危惧しているのかもしれない。


(もうすでに、私との関りを断つことはできないぞ)


 シオンは公務の合間を縫い、単身で平民街へと足を勧めた。彼は地味なフード付きのマント纏い、顔を隠す。彼の顔は知れ渡っているため、周囲で騒ぎが起こらないようにしなければならない。


(待っていろ、アメリー・セレーネ。私がその本性を見極めてやる)





 ◇ ◇





 最後にシオン様に手紙を送ってから、私は徹底した引きこもり生活を貫いていた。もう騎士団には近づかない。推し活は、彼が平民街を訪れる時に遠くからそっと眺めることに限定した。


(これでいいのよ。シオン様を直接みることができたし、彼に少しだけでも貢献できた。それだけで、私は満足。これからは、彼自身の幸せを見守らないと!)


 ただ、彼のブローチを返してしまったことは少しだけ後悔している。貰っておけば、私の永遠の宝物になっただろうに。あれだけでご飯三杯は食べられる。今は現物はないが、よく似たブローチを調達して身に着けている。これも、推し活の一部。


 それとない平穏な日々を過ごしていたが、そんな日々は唐突に崩れ去った。


 雑貨屋で、風邪を引いた父の代わりに店番をしていた時だ。店のドアが、ゆっくりと開いた。カランコロン、と、扉の上の鈴が鳴る。


「いらっしゃいませ……」


 顔を上げると、フードを深く被った人物が店に入ってきていた。そのフードの隙間から覗く銀色の髪を見て、私は思わず悲鳴を上げそうになった。


 長身で端整な横顔のライン、そして立ち姿から滲み出る圧倒的な存在感。平民街の取るに足らない雑貨屋(お父さんには悪いけど……)には似つかわしくない、神々しいオーラを放っている。


 見間違えるはずもない。


(嘘……シオン様……!?)


 その人物は店の商品を見るのでもなく、じっと私を見ている。そして私に向かい、静かに一言を発した。


「……君は、私のことを知っているか?」


 その声は低いけど優しく、前世でゲームのボイスを聞き飽きるほど聞いた、推しの声だ。


 私の頭は完全にパニック状態。まさか推しが、こんなところに来るなんて想定外も想定外!


(どうしよう! 推しが、推しが目の前に!! これは人生のバグに違いない。ああ、私死ぬのかも。ここで運を使い果たした。どうか来世も何かいいことがありますように!)


 私は咄嗟に、カウンターの上に置いていた雑誌に手を伸ばし、それを盾にした。フードで隠されているとはいえ彼を直接見ていては、目が潰れてしまいそうだ。美しすぎる。


「あ、あ、あの……! うちは、何の変哲もない、ただの雑貨屋で……その、あなた様のことですね! もちろん、もちろん知っていますとも。若き騎士団長様、シオン様でふよね!?」


 盛大に噛んだ。恥ずかしすぎる。顔に熱が集まり、全身がとにかく熱い。

 彼は何も言わない。ただ顔も動かさずにじっとその場に止まっている。心臓に悪い。鼓動が早い。寿命が縮んでいる。


 あろうことか、彼はゆっくりとフードを外した。外から差し込む光が、彼の銀色の髪を照らす。なんて神々しい。非の打ち所がないほど美しい。よく絵画で描かれている過去の勇者なんか比にもならない美しさ。かっこいい。かっこよすぎる。彼と並んだら私なんて道端の小石と同じような存在だ。


「驚かせてすまない。確かに私は、シオンだ」


 シオン様は、彫刻のように端整な顔を見せながら私に近づいてくる。まずい、心臓が持たない。イケメンすぎる。


「君に、聞きたいことが山ほどある」


 彼は真摯な眼差しで私をじっと見ながら、また一歩踏み出した。


(ま、ままま、まずい……やっぱり私は今日、寿命を迎えてしまうんだ。推しがこんなに近くに、推しの空気を今吸っている……!?)


 ゲームの中でシオン様を好きになった理由は何か。簡単だ。顔が一番好みだったからである! もちろん、彼の仲間思いで努力家な性格も大好きで、彼が持つ過去や孤独も踏まえて全部好きだ。それでもやはり、顔が良い。当然声も良い。スタイルも良い。全てが良い。


 そんな好きなところだらけの推しが目の前にいるのだ。正常でいられるはずもない。


 私は人生で最大のピンチに見舞われたのだった。

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