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第十七話 救出、保護


 騎士から目撃情報が伝わってきたため、シオンは王都から少し離れた位置にある雑木林を訪れた。彼女は自分と会いたくないだろうか、と考えたが、彼女が婚活の場で接触したという古美術修復士と名乗る男と共にいたという話を聞いたら、いてもたってもいられなくなったのだ。


 彼の胸を、激しい怒りと強烈な嫌悪感が占める。


(私を避けていたのは、他の男と会うためであったのか? それに、こんなにも安易に関係の薄い男について行くなど、危険に決まっている。彼女は自身の美しさを理解していない)


 マントを翻し、シオンは一人で雑木林の中を駆ける。途中で微かな声が聞こえ、彼はすぐさまその方向に急いだ。


 目に入ってきた光景に、彼の冷静な理性は音を立てて砕け散った。


 泥で少し汚れた緋色の髪の娘が、息を切らして地面に座り込んでいる。その顔は恐怖に歪み、小さな身体は激しく震えていた。そして彼女の前には一人の青年が立ち、彼女の腕を遠目で見ても分かるほど強く掴んでいる。


「どうせなら、僕のものになったあなたを騎士団長様に見てもらいたいですね」


 青年の声が、シオンの耳に届いた。「僕のものになった」。その言葉は彼の脳内で反響し、そして弾ける。


「っ……貴様!」


 彼は目の前を怒りで真っ赤にさせ、地面を強く蹴った。その音が聞こえたのか、青年とアメリーは同時に振り返る。アメリーは彼の顔を見て、一瞬安堵と混乱が入り混じった表情を浮かべた後、その瞳から大粒の涙を流した。


「し、シオン団長!?」


 青年は顔を引きつらせた。その顔に見覚えがあり、彼は眉を顰める。


「……お前、ライか?」

「僕のことを、覚えていてくださったのですか? それはとても光栄ですね」


 青年——ライはシオンを睨みつける。シオンは、彼と会ったことがある。それも当然。シオンは彼の上司であった。彼は騎士団で仲間を傷つけたため、シオンの命で除隊されたのだ。


「その手を離せ」


 シオンの声は低く、地の底から響くようだった。


「やはり彼女は、あなたのお気に入りなのですね。……僕はずっとあなたが憎かった。どうしたらあなたのその余裕な顔を歪ませることができるのか、ずっと考えていました。あなたがアメリーさんと親しく交流しているという噂を聞いて、僕は彼女に興味を持ったのです。彼女の純潔を僕が奪ったら……」

「黙れ」


 彼は、青年を一瞥する。その目は、獲物を仕留める騎士のそれだ。青年は少し怯んだようだがすぐに瞳に闘気を燃やし、アメリーから離れて懐から短剣を取り出して彼に襲い掛かってきた。その瞬間に、シオンも動く。


 剣を抜く必要すらない。彼は圧倒的な速さと体術で、青年の腹部に強烈な一撃を叩き込んだ。ドゴッ、と鈍い音が響き、青年はうめき声を上げてその場で倒れ込んだ。


「お前のような卑劣な輩が、彼女のことを穢すなど、断じて許さん」


 シオンの瞳は怒りで燃えている。彼は青年が動けなくなったことを確認し、震えるアメリーの方へと歩み寄った。


「アメリー……」


 彼の声は、怒りから一転して優しい。


「間に合って、良かった」


 アメリーは、シオンの足元に座り込んだまま涙を流していた。その小さな肩は、激しく上下している。彼は地面に膝を付け、彼女の頬に手を添えた。アメリーの大きな瞳から、涙が零れる。


「し、シオン……さま……っ、わ、たし……」


 彼女は言葉にならない声で、嗚咽を漏らす。泥で顔が汚れ、涙でぐちゃぐちゃになっているが、その姿はシオンの目にはこの世で最も愛おしい存在として映った。


(ああ。なんて可愛いんだ)


 彼はゆっくりと目を細め、彼女の身体を優しく抱きしめた。


「何も言わなくて良い。全て、私の責任だ。こいつは、私のことを恨んでいた。私のせいで、君を傷つけてしまったのだ」


 彼は強く、彼女を胸に抱き寄せる。


「すまない。私がずっと、君を守るべきだった。君が私から離れたのは、私が原因だったのだろう? 私が君に、気持ちを伝えておくべきだった」


 目を合わせる。シオンは愛おしそうに彼女の熱い頬を撫で、目を和らげた。


「アメリー。私は、君が好きだ。君を愛している」


 目の前の愛する彼女が、目を丸くした。彼女の目を見続けるのを気恥ずかしく感じ、彼は誤魔化すように彼女を抱き締める。


「君の返事は、後で聞かせてもらう。とりあえず、この場所から離れよう」


 シオンは優しい声を出しながら、彼女の髪をそっと撫でる。彼女は体を震わせながら、彼の胸に額を押し付けた。

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