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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第3部 愛と憎しみに導かれて

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98/120

98  連絡は形代で

 雷雅(らいが)の答えに煌一(こういち)がニヤリと笑う。

「いいね、その(いさぎよ)さ。俺の好みだ」


「マスター、何かご意見は?」

「雷雅さまには感服するしかありません」

そんなこと聞いてないって、と雷雅が苦笑する。


「それでどうしよう? 炎影(ほかげ)月影(つきかげ)がそれぞれ(ほむら)を連れて議場に来る。それも阻止する?」

「そんな気もないのに訊くな、ライガ。二人の(ほむら)を入れてやらないことには、本命の(ほむら)が来ないじゃないか――ソイツをやらないことには、決着がつかない」

そう言ったのはもちろんひなただ。龍弥(たつや)の皿に残っていたチョコレートを勝手につまんで食べている。


「炎影・月影を張り込めば、先に会場に入った(ほむら)二人が判る。少なくとも僕は炎影についた(ほむら)の顔を知っている。二人を人定するのはそう難しくない――この二人をマークして、本命が姿を現したところで捕らえるって手もあるけど、どう思う?」


「本命を改心させることが目的なんだろ? あっさり捕縛(ほばく)したところで、改心どころか、余計に復讐心を(あお)るだけだ」

煌一の意見に、ひなたが横で『そうそう』と頷く。目は皿のチョコレートに向いている。残り一つ、さすがに龍弥に遠慮しているのか? マスターが『まだあるからお出ししましょう』と席を立つ。やった! ひなたが嬉しそうに小さく言った。


「うん、やっぱり決戦は昼食休憩終了直後。本命が動き出すのを待つしかない――事前に炎影・月影と連絡を取って懐柔する手もあるが、それはしない。それをしたら本命は、またも影に……神影に邪魔をされたと思うだけだ。この際、一度はやり(・・)たい(・・)ようにさせよう」

雷雅がそう言って、自分で自分に頷く。


 マスターが戻り、置かれたチョコレートにひなたが目を輝かせる――雷雅が続けた。


「神影は炎影・月影の双方から攻撃を受ける可能性があるけど、煌一さん、そのあたり大丈夫?」

「おや、見縊(みくび)られた――多少の怪我人は出るかもしれないけどな、大丈夫、精鋭を集めておく……議場の警護ってことで()り抜きの狩人(かりびと)を配置するさ。炎影・月影に知られないよう、今夜中に手を回す。影だけの部隊も作る。もちろん、炎影・月影に大怪我を負わせないよう指示を出す」

「必ず炎影・月影を圧倒してください。おそらく本命はどこかに隠れて表には出てこない。それを(あぶ)り出すには向こうが劣勢になる必要がある」


「本命が出てきたらどうする?」

聞いたのはひなただ。マスターが追加で出してくれたチョコレートで、口が少しもごもごしている。


「僕が表に出る」

居合わせた全員が一斉に雷雅に注視した。

「必ず僕がアイツを圧倒する。(ほむら)()に敵わないって、イヤッてほど思い知らせてやる」


 引き気味の煌一が

「随分と威勢がいいが……勝算があるのか?」

と押し殺したような声で尋ねる。


「俺がライガの(そば)にいます。決してライから離れない」

煌一に答えたのは龍弥だ。

(ほむら)による()能力(ちから)を使った攻撃、それはライが防ぐ、(ほむら)による影の能力(ちから)を使った攻撃、それは俺が阻止する」


 雷雅が龍弥を見、龍弥がそんな雷雅に頷く。頷き返す雷雅が、龍弥の手を強く握りしめる。


 煌一から話を引き取って進め始めた時、震えていた雷雅の手を黙って握りしめてくれた龍弥の手だ。この手があれば僕は大丈夫、そう雷雅に思わせてくれた手だ。これがなければ、ビビってしまって思っていることを言いきれなかったかもしれない。


 雷雅が龍弥から、煌一・ひなた・マスターに視線を戻す。

()である僕、影であるタツヤ、二人がタッグを組めば(ほむら)と同じ能力(ちから)、そしてそれは必ず相手を上回る。僕とタツヤを信じて欲しい――僕はヤツに僕の両親の名を告げようと考えている。ヤツは躍起になって僕を自分の物にしようと試みるだろう。僕を従えられないと悟ればヤツは僕を消そうとするはずだ。ヤツはずっとそうしてきた。大奥さまを手に掛けたのもその一つだ。いきなり行動パターンが変わるとは思えない」


 煌一もひなたもマスターも、あまりいい顔をしていない。危険すぎると考え、他の手段を探している。それと同時に、雷雅を『やはり()なのだ』と思い知らずにいられない。()は影に守られる者、そして影を統率する者――


「僕からヤツに攻撃はしない。龍弥と二人、ヤツの攻撃をことごとく弾く。ヤツの攻撃は僕たちに通用しないとヤツもいずれ気が付く――煌一さん、ひなたさん、マスター、三人は僕とタツヤが弾いたヤツの攻撃に、他の影たちが巻き込まれないよう動いてください。ターゲットに対峙したら速攻で、僕の影以外の影に『手出し無用』と僕は命じる。だから炎影も月影も、僕とタツヤに手出しできない……たぶん今までの話から、ヤツの攻撃力は強い。弾き返すのがやっとで、コントロールするのは無理だと思う。特に火には気を付けて。決して着火させないように」

マスターが、わたしもお手伝いできるのですね。と嬉しそうに呟いた。


 難しい顔をしていた煌一がフッと苦笑した。

「そうさな、俺は影だ。そして俺の()いざ(・・)となると大胆だ。大胆なヤツも俺は大好きだ。俺は俺の()を信じる」


 雷雅の計画を受け入れていないのは残り二人、ひなたと、部外者となってしまった来訪者――


「ひなたさんには――」

そんなひなたに雷雅が向き直る。

「状況監視と分析を……ひなたさんの特殊能力で特出しているのは人間以外の影を操ることじゃない。パソコンの画面、あれはひなたさんの感じたもの可視化したものでしょ? 災厄魂(さいやくこん)や闇を探知するGPSみたいなものはないってマスターが言った。だとしたら、ひなたさん自身が検知器だ」

じっと雷雅を見つめていたひなたが視線を落とす。


「騙すつもりも隠すつもりもない。ライガなら気付くとも思っていた」

「特殊能力は隠すものだと知っています。ひなたさんを責めるつもりなんかない。僕のために使って欲しいと言ってるんです」

これにはひなた、つい笑ってしまった。


「僕のために使え、か。なかなかの殺し文句だ……ライガ、おまえ、とんでもない女ったらしになりそうだな」

ひなたの冗談にマスターと龍弥がクスリと笑う。


 身の置き場のなさそうな男に雷雅が向かう。

「明日の本番に、あなたが負うべき役目はないようです。が、あなたにはして貰わなければならないことがあります」

「なんでも言ってください。無理な事でもなんとかします」

男が救われたような顔をする。


「会議場で起こることには、こちらでどうとでも対処できます。ですから、あなたは(ほむら)が会場に着くまでをお願いします。そのあたりをサポートしてください。具体的に言えば、計画の変更や齟齬(そご)があった場合、教えて欲しいのです。これ以上、後手に回れば勝機を掴めなくなる――お兄さんとの連絡はスマホで?」


「以前はそうでしたが、今は形代(かたしろ)を使っています。形代での通信は誰であろうと妨害できないうえ、傍受されることもありません」

「形代? それはどんなものでもいいのでしょうか?」


「あ……わたしがキミに連絡する方法を言っているのですね? 互いの思いが込められた物でなければ形代にできません。相手を思い起こせなければ、思いが相手に届かないのです」

「なるほど、僕とあなたの間にはなんの思いもない。だから形代にできるものがないという事ですね」


 少し考えてから雷雅が龍弥を見た。龍弥が頷いて立ち上がる。


「ひょっとしたら、その形代にできるものがあるかもしれません。今、持ってこさせます」

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