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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第2部 運命は目覚めの先に

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65  平和主義者

 ()を名乗る、と言うのは()だと自分で言ったという事か? と煌一(こういち)が確かめる。

「自分でそう言ったし、実際、あの人は()なのだと思います」

昆布の佃煮を箸でつまみ、(かゆ)に入れながら雷雅(らいが)が答える。箸を蓮華(れんげ)に持ち替えて昆布と粥を馴染ませて(すく)い、口に持っていく。


「意識に直接話しかけてきましたから――影なら向こうが話しかけてくる前にタツヤが気付いたはず。でも、タツヤは検知できなかった……()で間違いないと思います」


「影が()に気付かない?」

「どうやら覚醒した()は、影から自分の存在を消せるようです」

雷雅の言葉に煌一とひなたが顔を見かわす。


 ひなたが呆れたように言う。

「つまり、影ならすぐに()を検知できるというのは、影がそう思っているだけだという事?」

「そうなります」


 今度はアサリの佃煮を取って、同じように粥に入れる。

()には影から隠れる力がある、間違いない事実です」


「たまたまソイツにはそんな能力(ちから)があるという事では?」

「すべての()に影を回避する能力(ちから)があるとは断言できません。でも、あの男だけでないのは判っています」

「なぜ、そう言い切る?」


 雷雅が蓮華を椀の中に置いた。

「母さんの病院、葬儀、火葬場、墓地――あの男とは別の()が来ていました。それに煌一さんでさえ気が付いていない。だからです」

「な……」

雷雅を見詰めたまま、煌一が絶句する。


「そうだね、()については謎の部分も多い」

引き継いだのはひなただ。

「あるいは意図的に隠しているのではないかと言う学者もいる――その学説が正解だってことかもしれない。意図的に隠したのが()だとしたらね」


 隣で煌一が唸る。

「だとしたら、俺たち影はなんで()を必死に守ろうとしてるんだ?」


「世の中に災厄魂(さいやくこん)蔓延(はびこ)らないよう尽力しているのでは?」

答えたのは雷雅だ。


「それは――それもあると言うだけだ。一番は()を守ることだった。()が絶滅したと思われるまでは、だが」

「なぜ、()は絶滅したと影は考えたのでしょうか? 確か、()の誰とも連絡がつかなくなったのではなかったですか?」


「うん、そうだね、そう聞いてる」

ストローを弄びながらひなたが答える。

「ずっと前、わたしが生まれるよりも前の話だ」


 煌一と違ってひなたからは深刻さが感じられない。頼れるのはひなただ、と雷雅が思う。煌一はいざと言うとき迷いが出るかもしれない。ひなたならきっと、単純に物事を判断するだろう。


「なぜ、()との遭遇を今まで黙っていた?」

詰め寄ってきたのは煌一だ。


「雷雅の母親の病院に()がいたなら、葬儀の場に来ていたのなら、その後も……なぜ言わなかった?」

「僕の父かもしれないって思いました」

「ライガの父親?」

「でも、確証がなかった。今でもどうなのか判らない。そんな状態では煌一さんたちに打ち明けられなかった」


 唸る煌一、視線を龍弥(たつや)に向け、

「タツは気が付いていたのか?」

と口調を押さえて尋ねる。


「ライに聞くまで知りませんでした。『おや?』っと思ったことはあります」

「それは?」

「それだって、()がいると思ったわけじゃなく、ライの様子が奇怪(おか)しかっただけだから――()とか影とか関係のない悩みが原因かもしれないと思ったので、追及できませんでした」


「恋の悩み?」

ひなたがクスッと笑い、煌一が『茶化すな』と小さく叱責する。


「僕たちが思っている以上に()の一族は生存しているかもしれません」

雷雅の言葉に煌一が、うん? と首を(ひね)る。


「電車で遭遇した男、ライガの父親かもしれない男、他にもいると?」

「その二人が、神影を襲撃した犯人じゃないとしたら?」

「その二人が犯人じゃない根拠は?」


「電車の男は犯人を知っていると言いました。僕に教えると――でも、龍弥と二人でその男と会うのは危険だと判断し、日を改めて欲しいと言いました」

「そうか、その男が言っていることが本当だとしたら除外できるという事だね。あくまで本当だとしたら、だ」


「はい、そこまで否定しません――もう一人、こちらは……」

雷雅が押し黙る。その雷雅を煌一がジロリを見、ひなたがストローを咥えたまま見守り、腕を組んだ龍弥は見るのを避けた。


「僕の父だとしたら、影の敵であって欲しくありません」

その答えに煌一が溜息を吐いた。

「つまり、希望的観測か。急に、冷静な判断ではなくなっている」


 するとひなたがストローを吹き始め、プクプク音を立て始めた。

「おい、こら、何やってる?」

呆れる煌一、急に緊張がほぐれた雷雅が笑いだす。


「ひなたさん、子どもみたい」

「ふふん、可愛いもんだろ?」

そう答えてニッコリ笑う。


「もちろんライガだって、絶対に自分の父親が敵じゃないとは言っていない。敵かどうかはっきりしない今、そうであって欲しくないと思っているだけだ。当然のことだよ」

「だが、ひなた――」

「コーちゃんが心配するのも判る、油断大敵だって言いたいんだよね? でもさ、ライガの気持ちはライガのものだ。誰にもどうにもできない」


「俺、しっかりライを守ります――()を検知できなくても、ライは頭が良くて気が回る。危険だと判断すればすぐ俺に教えてくる、そして必要なら(めい)じてくる。そんなライだから俺、一緒に居ても安心だし、守れるって思える」

一気にまくしたてた龍弥に煌一が溜息を吐く。


「どいつもこいつも――俺がどれだけ心配しているか……」

「煌一さん、ごめんなさい」

雷雅が思わず煌一に謝罪する。その雷雅から煌一が目を逸らす。


「いいや、ライガ。俺もタツと同じだ。おまえなら、と思っている。たださ、なんだ、ちょっとな……()に遭遇したって、すぐに話してくれなかったのは信用されてないからかって思ってしまった」

「そんなつもりじゃ……」


「うん、判ってる――で? これからどうするつもりだ?」

「影はなぜ()が絶滅したと考えたのか、その理由が知りたいです……それに、電車の男とは、会って話を聞こうと考えています」

「ライガ?」

「煌一さんも同席してください。タツヤを信用しない訳じゃない。でも、煌一さんも一緒なら万が一、攻撃を仕掛けるつもりが向こうにあった場合、やめようと思わせられるかもしれない」


 判ったと煌一が頷き、ひなたが

「争いを好まないライガ――そんなところもわたしは好きだよ」

と、ニッコリ笑った。

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