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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第2部 運命は目覚めの先に

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52/120

52  違和感

 顔色を変えて煌一(こういち)が立ち上がり、マスターが何かのスイッチをパチパチと入れている。きっと屋上の照明装置――災厄魂(さいやくこん)()けだ。ひなたが煌一に寄り添い、龍弥(たつや)は目を丸くして雷雅(らいが)を見る。


 茫然自失で立っているかと思えた煌一が、

「遅かった――総本部に火を付けられた」

と、ポツリと言った。影を飛ばして神影(みかげ)の様子を見たのだろう。マスターが滅多につけないテレビをつけ、音量を調節した。


 煌一は溜息(ためいき)()いたあと、気を取り直したように雷雅の前に座った。ひなたもついてきて隣に座る。


「なぜ、判った?」

煌一が雷雅に尋ねる。


「判りません。いきなりなんか、頭に浮かんだ」

「浮かんだって、言葉?」

「景色って言うか、映像って言うか……」

「どんなだった? 俺が影を飛ばした時はすでに炎に包まれていて、誰がどこにいるか探れなかった」


「待って、思い出すから――急に、そう、大奥さまの大声が聞こえたんだ」

「なんて言った?」

「そんな馬鹿な……だったと思う。それから、いろんな人の怒鳴り声も聞こえた。なんて言っていたかは――」


そうか、と煌一が黙り、そこへひなたが

「お義父(とう)さまを見つけた」

と呟いた。


 キッと煌一が顔を上げ、怖い顔をしたがすぐに安堵の表情を浮かべる。ひなたも神影家に影を飛ばして探っていて、煌一の影と向こうで合流したんだと思った。


「タツヤも向こうに?」

目の前に座る龍弥に雷雅が問う。

「いや、俺はマスターと二人でこっちを守ってる」


「うん。用心に越したことない――あのさ、ここに帰ってきたとき、僕、なんかすごく安心したんだ」

「ん?」

龍弥が怪訝そうな顔で雷雅を見る。


「神影のお屋敷を出てからずっと、誰かに追いかけられてた。その時は判らなかったけど、あれってそう言う事なんだと思う」

「ライ?」


 そう、追いつかれる前に陽だまりに着いた、だからホッとした。今なら判る、日没前に着いたからじゃない。そして誰かに見られているような感覚、あれは取り逃がした獲物を残念そうに睨みつける視線を感じたんだ。


「この騒ぎは、闇や災厄魂じゃない」

なんで今頃、気が付くんだ? あの追われている感じ、あれは――


「いつでも離れずついてくる、あれは影だ。車の影に、誰かの影が潜んでいた」

「いや、待て……」

龍弥が蒼褪めて、だが雷雅に反論する。

「もしそうなら俺はともかく、煌一さんとひなたさん、それにマスターもいるのに気が付かないはずがない」


 あっ、と雷雅が龍弥を見る。

「そうだ、そうだね、そうだよね――でも、なんだろう、この違和感。車の影に()が潜んでいたと考えればストンと腑に落ちる。それが違うとなると……闇でも災厄魂でもない。でもあの感覚は、車体に何かがあった(・・・)って感じる」


「だとしたら――」

横からひなたが入ってきた。

「影でも闇でも災厄魂でもない――生身の人間だな」

「生身の人間?」


「ライガ、車体の下って言うのは確実か? トランクってことはないか?」

「あ……」

フン、と鼻を鳴らし、ひなたがまた黙る。


 考え込んだ雷雅を横目に龍弥が

「煌一さんは意識を影に?」

と、ひなたに尋ねる。


「うん、消防が来て、母屋(おもや)は類焼を免れた。煌一の両親は無事。でも、祖母ちゃんとメイドのさつきが見つからない――煌一が影を動員して探し回ってる。総本部にどれだけ人がいたかが把握できてなくって手間取ってる」


「俺も行きますか?」

「いや、わたしが呼ばれている――煌一もわたしも身体はここに置いておく。何かあればすぐに戻れるようにね。タツヤはマスターとここを守れ。頼んだよ」

チラリとひなたが雷雅を見た。それから考え込むような表情になり動きが止まる。よくよく見ると呼吸しているのが判るし、瞬きもしている。それは隣に座る煌一も同じだ。


 ジューサーの音がして、ほどなくマスターが『メロンジュースです』とグラスを雷雅と龍弥の前に置いた。


「お嬢さまは生身の人間、と仰いましたが――」

龍弥の横に腰かけてマスターが言う。自分にはコーヒーを淹れたようだ。


「大人の人間が一人、トランクに乗っていたなら運転するわたしが気づくような気がします。でも、自信がありません――確かに往路よりも復路のほうが重かった。しかし、帰りは行きより一人多く乗った」


「車を見にきますか?」

腰を浮かせる龍弥に、

「いいえ、もし誰かがトランクにいたならばとうに抜け出していますよ」

と、マスターが止める。

「今はここを離れてはいけません」

落ち着かない様子を隠しもしないで龍弥が座り直す。


「しかし、遠隔視も可能とは……()の一族は万能と聞き及んでおります。これからもどんどん能力が開花するでしょう。楽しみです」

「遠隔視? 僕は幻を見たんじゃなくて?」

「実際に事は起こっていた。と、言うことは現実であり、幻ではないと愚考いたします。ただ、若干、時差があったようでございますね。この先もそうなのか、変化するのか……」

感慨深げにマスターがコーヒーを啜った。


「ねぇ、トランクって中から開けられるの?」

雷雅の疑問に、

「トランクの中にいるのが影の一族なら、影だけ外に出して、ロックされていなければトランクを開けられる」

と龍弥が答えたが、マスターが

「トランク内部に、ロックを解除する装置が付いております――それを知っていれば誰でも出てこられます」

と、澄まして言い、龍弥が顔を赤くした。


 なんか、マスター、いつもと違うぞ、そう感じながら雷雅が次の質問をする。

「トランクの中……暗くて影ができないんじゃ? それでも影は出せるんだ?」

「最初から影は中に入れずに車の影と同化させておけばいいと思う。あ、ダメだ、それじゃあ煌一さんたちに見つけられちゃうんだった」

自分の発言の矛盾に慌てる龍弥、ここでもマスターが、

「トランク内部の照明を点灯いたしましょう」

と、これは助け船を出す。


「なるほどね――それにしてもさ、影を飛ばすって一瞬にしてどこにでも行けるものなの?」

「うん、夜のほうが簡単だけど――一続(ひとつづ)きになってる影と同化できれば、その一続(ひとつづ)き影の端に瞬時に到達できる。同化と同時に目的地に出られるってことだ。一続きの影がない時は、できるだけ近くの影に飛び移って進むから、一瞬とはいかなくなる。電線の影を使うことが多いかな。割とどこにでも行ける」


「タツヤもできるんだよね?」

「そうだね、煌一さんみたいに遠くまでは行けないけど」

「影ならだれでもできるんだ?」

「才能にもよるよ。才能があっても訓練しなきゃダメだし」


 だから龍弥は子どものころに神影に引き取られた、そう思ったがそれは言わず

「訓練、ってどんなことするの?」

と雷雅は聞いた。


「影の操作術なら、最初は自分の影を本体から引き離すことから――これがさ、影が(いや)がってなかなか言うことを聞かない。子どもだったからかな?」


 龍弥がマスターに顔を向ける。するとマスターが

「子どもだからという面もあったかもしれませんねぇ」

と微笑む。


「基本的に影は本体に寄り添うもの。寄り添いながら影もまた、本体に依存しているのです。本体がなければ存在できませんから――そう考えれば、訓練を始めるのが大人であっても最初のうちは、やはり影は心細がって泣くかもしれません」


「影が泣くんだ?」

驚く雷雅に、

「泣くよ」

「泣きますとも」

と、龍弥とマスターが声を揃える。


 そうそう、面白い話をしましょう、とマスターが雷雅と龍弥の顔を交互に見る。


「眠っているときに見る夢、あれね、同時にいくつも見ていることがあるそうなんです。脳って器用ですよね」

「次々に見るのではなくって?」

「もちろん、次々に見ることもあります。今お話しするのは同時(・・)、疲れ過ぎていたり緊張が強いとなりやすいそうです――で、そんなとき、本体が意識している夢と影が意識している夢が別のものだと、本人は泣いて目を覚まし、影は笑って目を覚ます、という奇妙なことがあるそうです」


「ヤだな、それ――暫く影を動かせなくなりそうだ」

そう言ったのは龍弥だ。

「自分の影が信用できなくなりそう……」

「ご心配なく」

マスターが微笑む。

「夢は起きた瞬間に忘れることが多いのです。しっかりと心と身体が目覚めれば、自然と融和するので心配ご無用ですよ」

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