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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第1部  示される能力(ちから)

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33  影のバリア

 それきり何も言わない煌一(こういち)雷雅(らいが)が小さく息を()く。


 僕は()の一族、そう口にしたとき、自分の中のどこかで『コトン』と音がしたと感じた。それと同時に、今まで見えなかったものが見えたような感覚を味わっている。心の隅の、暗くて存在にさえ気が付けなかった場所に光が差し込み、そうだ、こんなところがあったんだ、やっと判った……そんな感じだ。


 その判ったものを煌一は教えろ、と言っている。

「屋上に行きますか?」

雷雅の言葉に、煌一は雷雅を見つめ続け、龍弥(たつや)は動揺する。ひなたは黙ったまま、いち早く立ち上がった。それを煌一が引き留めた。


「いや、真夏の日差しは強烈過ぎる――ライガ、何ができると感じる?」

「そうですね――例えば……」


 部屋の中を見渡した雷雅が、テーブルのコーヒーカップに目を止める。するとソーサーの下にうっすら見えていた影が消えた。


「消えた影はどこへやった?」

「どこにも。()を当てて見えなくしただけです」

煌一の質問に雷雅が答え、同時にソーサーに影が戻る。


 立ち上がったままだったひなたが急に力を失くし(くずお)れるのを、慌てて煌一が支え、自分の隣に座らせた。


「強い力を持っているとは思ってた。でも、ここまで?」

消えそうなほど小さな声でひなたが煌一に問う。煌一は雷雅に視線を戻し、ひなたには答えない。龍弥もひなたと同じく蒼褪め、僅かに震えているようだ。


「使えそうなのは()だけか?」

煌一だけは雷雅を見極めようというのか、険しい表情を変えることなく雷雅に向き合っている。


 少しだけ考えてから雷雅が答えた。

「影に()を当てて消す、それと反対に当たる()を減らして影を際立たせる。同じ要領で、閉ざされた空間であれば()の量の調整も可能――それと、今、災厄魂(さいやくこん)の卵のような存在を駅の近くで……あ、でも、消えた。昼間だから?」


「うん。誰かが心の中に負の感情を抱いて災厄魂が生まれそうになったが、その誰かは思いとどまった、そんなところだな。で、昼間だろうが災厄魂は生まれる。ただ、表に出てくるのは太陽が地平線より下に居る時だけってことだ」

「それって、生み出した人に内包されるってことですか?」

「内包されたままなら災厄魂になることもある。だが、ほとんどは禍津火神(まがつひのかみ)に回収されるから心配ない。災厄魂の卵なんて、一日中、次から次に生み出される」

「次から次……いちいち感応してたら、身が持たない」


「その能力は必要な時しか使わなくていい」

「必要な時?」

「今は俺がほかに何ができるか聞いたから、ライガは感覚を研ぎ澄ました。普段からそんな必要はないという事だ。使うのは災厄魂が出現してからでいい」

「出現した災厄魂を追跡するときとか?」

「うん、そうだな……それでどうだ? ほかに何かあるか? あるいは気分が優れないとか、どこかに違和感があるとか」

「気持ちが悪いという事はありません。自分でも驚いているってのはあるけど――それも僕が()だからだって納得してるんだけど、そのあたりがすごくヘン」


 クスリと煌一が笑む。

「そうか、すごくヘンか――それは多分すぐに慣れるよ、感じなくなる」

それから隣に座らせたひなたに向かい、

「大丈夫、心配いらない」

(なだ)めるように言った。


「ひなたさんは何をそんなに心配してるんですか?」

「調べて判ったんだが、()の一族の中には、覚醒時の衝撃を受け止めきれずに錯乱する者や、人格に変化のある者がいるらしいんだ」


 雷雅がテーブルに積み上げられた冊子を見る。

「そこに書かれていた?」

「そうだね。だがどれも曖昧で、らしい(・・・)という書き方しかされていなかった。もしそうなら原因が知りたかったが出てこないし、キミにそんな変化は見られない。だから安心していい」


「そうでしたか――ところでタツヤ、僕がタツヤを見下(みくだ)したりすると、本気で思ってる? するわけないし……それにひなたさんっ! 着替えを覗き見したりなんかしないからっ!」


 雷雅のこの発言にぎょっとしたのは煌一だ。

「ライガ、おまえ、自分がタツヤとひなたの影を読んだって自覚していないな?」

「えっ?」


 驚いて雷雅がひなたを見るとくすくす笑っているし、龍弥はますます蒼褪め、見て判るほどガタガタ震えている。


 龍弥を見て煌一が苦笑する。

「簡単にバリアを破られた、怖がるのも無理はない。が、タツヤ。ライガの言うとおりだ、こいつはまだ自分の力をコントロールできないだけ、判るだろう? おまえが教えてやれ」


 狼狽(うろた)えるのは雷雅の番だ。

「ごめん、そんなつもりじゃなかった。普通に聞こえたから、タツヤがそう言ってると思ったから」

龍弥は雷雅の顔から目を離さない。


「いや、うん、そうだ、ライガが悪いんじゃない。いきなり無防備にされたと感じてた俺が慌てて焦っただけだ。ライが俺に攻撃するはずないのに、攻撃されるんじゃないかって。ただ無防備なのが怖かっただけなのに、そう思ってしまった」

そう言ってさらに龍弥が雷雅の顔を見る。


「それにしても、いきなりこれほどの力を発揮するって……バリアがダメなら深奥に隠そうとしたのにできなかった――ライが俺を呼んでいたからでしょうか?」

最後は煌一に向けた質問だ。


「あぁ、確かにライガはわたしを呼んでいたな、呼ぶって言うか頼ってきた」

そう答えたのはひなただ。


「けれど無視することも可能だった……ライガの影に対する力は、影の実力で変わってくるという事?」

ひなたのこの質問も、煌一に向けたものだ。


 煌一は苦笑して、

「なるほど、俺だけはライガに頼られなかったか? 何も感じなかった。でも、そうだね、俺と雷雅はそれほど親しくない」

と、さらに笑う。


「影の力に左右したのかどうかは判らんな。俺には、ライガが強く信頼しているのがひなたよりタツヤだったからじゃないかと思える」

「あぁ、なるほどね」

さっき倒れそうだったのはどこへやら、いつも通りのひなただ。


「そう言えば、ソーサーの影を消したのって、そんなに凄いことなんですか?」

雷雅の問いに、煌一とひなたが苦笑する。


「ライガ、影を消すのと同時におまえ、ひなたとタツヤの影にコンタクトしているんだ。簡単にバリアを破った力の強さにひなたは衝撃を受けた。力が強ければ覚醒時のショックが大きいだろうと予測していたからね。よくないことが起こるんじゃないかと思ったんだ。龍弥のほうはもう言わなくても判るだろ?」


「ねぇ、煌一さん――影にバリアをかけて他の影に読み取られないようにしてるってタツヤから聞いたけど、影同士で情報交換するとも聞いてる。バリアがあったら話しかけられないんじゃ?」


「そのあたりもタツヤに教えて貰え。顔が見えるところに居ればアイコンタクトを取ることが多いけど、影だけ飛ばしているときは別の方法を取る――もっとも、()の一族のキミは、自分の影を単独で動かすことはできないけどね」

と言う事は、やっぱりさっき煌一さんと龍弥がアイコンタクトを取ったのは影同士で話しをするって意思表示だったんだと雷雅が納得する。


「でだ、ライガの覚醒が最終段階に達したと、判ったところで相談がある」

煌一が座り直したところでひなたが口を挟んだ。

「その前にエネルギー補強しよう。ライガ、なにが食べたい?」


「えっ?」

「そうだな、甘いモノでも食べるか」

と煌一まで賛成する。すると龍弥が、

「能力を使うとエネルギーを消耗する。ライはまだ自覚でてきないかもしれないけれど、使い始めだ。きっと思っているより疲れている。いきなりガクンと来る前に何か食べたほうがいい。身動き取れなくなる」

耳打ちしてくる。


 その合間に内線電話を使ってひなたはマスターに何ができるか聞いている。

「お勧めはプリンアラモード。パフェはイチゴか桃、カステラに羊羹(ようかん)、豆大福。みたらし団子に、ベイクドチーズケーキとエッグタルト。あとは材料があれば作るから言ってくれって」


 豆大福とみたらし団子、どっちにするか迷いながら、こんなマスターがいるのになんで喫茶室『陽だまり』に客が殺到しないのか不思議だと思う雷雅だった。

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