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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第1部  示される能力(ちから)

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 雷雅(らいが)龍弥(たつや)の顔を見比べながらひなたが言った。

「それでどうする? 煌一(こういち)はああ言ったけど、二人がイヤならタツヤはここに住まなくてもいいよ」


 驚いた龍弥が、

「そんな! 煌一さんのご意思に背くなんて」

(おのの)くが、ひなたはこともなげに答えた。


「ライガが拒否したことにする」

「なんで僕?」

驚くのは雷雅の番だ。


「ライガがイヤって言えば、煌一も無理強(むりじ)いできない。ライガ、すごいな、煌一に命令しちゃえ」

「こんなに世話になってるのに、そんなことできませんって!」


「いや、ひなたさん、煌一さんを裏切っちゃっていいんですか?」

「ん? タツヤ、面白いことを言う。これが裏切り?」


「だって煌一さん、俺にこの部屋に住めって……あっ、でも俺がここに住んだら、ライのお母さんが退院した時、困りませんか?」

退院と聞いて、雷雅がハッと龍弥を見た。慌てて龍弥が目を()らす。


(やっぱり母さんはもう病院から出てこれない)

龍弥がここに住む、それはここに雷雅の母が来ることはないってことだ。それが判っている龍弥が雷雅を気遣って『退院したら』と言った。その言葉はむしろ、雷雅にきっと退院なんかできない、だからここに母さんが住むこともないと悟らせた。


「僕は構わないよ」

雷雅が静かにそう言い、ひなたは雷雅を見つめ、龍弥は(うつむ)いてしまう。


 ひなたがそっと、雷雅の肩に手を置く。

「ライガのお母さんが退院したら、(うち)で引き受けることになってる。わたしの部屋に来て貰う」

気安めだと思う雷雅だ。けれど口にできない。


 母さんの話しはもうやめだ。雷雅が話題を変える。

「ひなたさん、龍弥を襲った敵の目的、判っているんでしょう? 僕の情報?」

「うん? うん。ま、そうだな」


「だから僕の護衛の強化。そのために龍弥がこの部屋に住む」

「それもあるが、同時にタツヤを護衛する意味もある」

「お、俺を護衛?」

龍弥の声が裏返る。


「なんで、俺を? 確かに今回、(おく)れを取ったけど、もう二度とこんな――」

「タツヤの実力を疑問視しているんじゃない。だけど闇の出現、そして影が影を襲った。闇の正体および影の襲撃者の正体が判明するまでは油断できない。影の狩人(かりびと)を一人でも失うのは痛い」


「だから、もう二度と!」

「よく聞け、タツヤ。おまえは守られると同時に守るんだ――この建物は様々な設備が(ほどこ)された、言わば要塞(ようさい)だ。だからこそわたしとマスターで充分と煌一は判断していた。だが事態が変わり、強化の必要がある。そのためのタツヤだ。ここに住むのがそんなにイヤか?」


「いや、そうじゃなくって……」

「さらにライガを目覚めさせ、能力を高める必要がある。その手助けにはタツヤ、おまえが適任だ」

「俺が?」


 ひなたがクスリと笑う。

「タツヤ、おまえはライガのことを『ライ』と呼んだり『ライガ』と呼んだりするよな? ライガに心を許し、信用している。解術者をライガに設定したのもその現れだ。任務だからと言う理由だけじゃなく、おまえはライガを守る。自分が守りたいからライガを守る。わたしはそう感じている」


 龍弥が気恥(きは)ずかしそうに雷雅を見て、すぐに視線を外す。

「ライって呼ぶのは、ライガの友達がそう呼んでいるから()られたんだ」

龍弥がぽつりと言った。


「そして、俺がそう呼んでもライガは少しも嫌な顔をしなかった。驚くことも、戸惑うことも、躊躇(ためら)うこともなく、何も考えず……(うま)く言えない。なにしろライガはそんな俺をほかの友人と同じように受け入れた――ただ、それだけだ」

「そうか……」

ひなたが笑みを浮かべる。そして雷雅に向き合った。


「ライガは? タツヤとのルームシェアはイヤ?」

「僕は……何か言える立場じゃないし。ここ、家賃払ってないわけだし」

「そんな事を気にするか?」

ひなたが声を立てて笑う。


「だって、それに、僕を守るためなんでしょう? 僕のためなのに、文句言えるわけないじゃん!」

「言いたいことがあるなら遠慮するな。善処するぞ」


「別にない。部屋は各自にあるわけだし――別の話になるけど、言いたいことじゃなくて訊きたいことならある」

「訊きたいこと?」


「うん、さっきの続き――なんで僕の情報を欲しがる影かいるのかってこと」

「それか……」


「タツヤを襲ってまで欲しい、僕の情報って何?」

ひなたと龍弥が目を見かわし、それを見た雷雅がムッとする。


「ふたりだけで判っちゃわないでよっ!」

「いや、ライ、俺も実はよく判らない」

龍弥が慌てて言い訳する。


「今の任務はライガを守ること、それって情報も含まれる。だからとっさにライガの情報を隠さなくちゃって思っただけだ――って、やっぱりヤツの狙いはライガの情報なんだ?」

龍弥がひなたを見、雷雅もひなたを見た。


 フフン、とひなたが鼻を鳴らす。

「ま、相手から聞いたわけじゃないんだから、断定はできない。が、状況的に『ライガのこと』で間違いないだろう」


「状況的にって、闇の出現を言う?」

雷雅の言葉に、ひなたが首を振る。

「いや、影の新たな勢力のほう。ライガが欲しいんだ。()の一族を抱えた影は他の影より絶対優位だ」


「新たな勢力――」

龍弥が震えたような気がした。

「どれくらいの規模なんでしょうか?」


「なんだタツヤ、おまえもライガと同じで馬鹿か? 今日、やっと、そんなのがいるって判ったのに、規模まで判るもんか」

ひなたの罵倒に龍弥の顔がほんのり赤くなる。


 ま、いっか。と急にひなたが立ち上がる。

「陽だまりに行こう、タツヤ、お(なか)すいたんじゃないか? お粥だけじゃ腹持ちが悪い」

ひなたさん、またパフェでも食べるんですか? 心の中で雷雅が呆れる。


「煌一さんとマスターの打ち合わせの邪魔になりませんか?」

そう尋ねたのは龍弥だ。


「とっくに煌一は部屋に帰った――そろそろわたしが来るんじゃないかって、マスターがきっと待っている」

「マスターが?」

不思議がる龍弥に雷雅が耳打ちする。


「ひなたさんはすぐお腹を減らす……それに今日はまだパフェを食べていない」

「パフェ?」

「うん、ひなたさんの主食と言ってもいい」

不思議そうな龍弥にクスクス笑う雷雅、ひなたは『何か言ったか?』と、聞こえてないふりをしたようだ――


 内階段から店に降りると、お待ちしておりましたとマスターが出迎える。シャインマスカットとメロン、どちらがいいか訊かれたひなたがメロンと答え、マスターがニッコリした。


「雷雅さまと龍弥さまはいかがいたしましょう」

さま(・・)なんて付けないで、と龍弥が言い、

「何かお(なか)に溜まるものってできますか」

と訊いた。


「オムレツのサンドイッチ、お好み焼き、おにぎりならツナにタラコ、あぁ、いなり寿司もご用意できます」

「それじゃあお好み焼きで」

嬉しそうな龍弥、

「僕もお好み焼き、お願い」

便乗する雷雅、

「マスターわたしも!」

ひなたまで便乗した。


 出されたお好み焼きはソースのいい匂いの中に青海苔の香りが混じり、鰹節(かつおぶし)がゆらゆらと湯気に揺らされ踊っている。


「おおぉ! 見よ、この上昇気流! 鰹節に負けることなく我々も――」

「黙れ、ひなた」

ひなたの様子に目を丸くする龍弥、雷雅に一喝されて渋々黙ったひなたが食べ始める。なんだか愉快になって雷雅がクスリと笑う。いつも通りだ、それが嬉しい。そんな雷雅にマスターが優しいまなざしを向けていた。


 今日は珍しくカウンター席に座ったひなただ。雷雅も龍弥も横に並ぶ。

「煌一、何だって?」

お好み焼きを(はし)で切り離しながらひなたがマスターに訊くと、マスターが少し(うつむ)いたように、雷雅には見えた。

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