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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第1部  示される能力(ちから)

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22/120

22  表に出てこない意識

 俺たちも一緒に、シンヤはそう言ったがセツがぽつりと『病院に迷惑になるよ』というと、それもそうだなと帰ることにした。ユウキは一緒に行きたいと粘ったけれど、落ち着いたら来てやってとひなたに言われ、しぶしぶだが帰ってくれた。ひなたの影がユウキの影に接触したのを雷雅(らいが)は見逃していない。きっと影を説得し、ユウキを帰らせたんだ……だけど、それをどうこう言っている場合じゃない。


 それぞれに心残りを顔に映して帰っていく中、セツが雷雅に駆け寄って両手を握った。

「しっかりね!」

どう対応していいか雷雅が迷っているうち、コンコが『セツ、帰るよ。じゃあね、ライ』とセツを雷雅から引き離すように連れて行く。


「しっかりしろ、ライガ」

ニヤニヤ見ていたひなたが雷雅の耳元で言った。


 歩いても十五分程度の病院までマスターに車で送って貰う。『陽だまり』は店を閉めた。マスターは駐車場に停めた車の中で待つと言う。警戒のためだとひなたが言った。


「外部で何かあれば、すぐにマスターを通してわたしに知れる」

「病院の中は安全なの?」

「さぁ……でも、わたしがいる。心配ない」


 病院も警察も、龍弥(たつや)の名を把握していなかったようだ。受付で名前を言っても判らなかったが、ひき逃げでと言ったらすぐに病室を教えてくれた。


「運ばれるところを近所の人が見ていて――親戚の子じゃないかと思うんです」

ひなたがガタガタ震えながら訴えれば、すぐに確認してくださいと病室の前にいた警官がドアを開けた。


「龍弥……」

倒れそうなひなたを雷雅が慌てて支える。

「間違いありませんか?」

「はい――」

ひなたの代わりに雷雅が答えた――


 話を聞きたいと、ひなたと雷雅を別室に連れて行ったのは私服の警官だった。会議に使う部屋を特別に借りたと言っていた。ひなただけでいいと言うのをひなたが涙目で、『一緒でないとわたし……』と訴え、雷雅も同席することになった。


「どうも、単なるひき逃げじゃないようなんです」

一瞬の出来事で誰も見ていなかった。そのうえ誰もブレーキ音や接触音を聞いていない。

「歩道を隠里(かくれざと)さんが歩いていたのはなんとなく認識していた。だけど次に気が付いた時には車道に横たわっていた――近くにいた人は皆さん、そう証言されているんです」


 付近の防犯カメラを調べたら、歩道を歩く龍弥、車道には背後から近づく白いワンボックスカーがいて、追い越そうかと言うとき、画面が真っ黒になり、映像が戻ったときには車道に龍弥が倒れていて、白い車は通り過ぎていた。


「それって龍弥が車の前に飛び込んだってことですか? ありえない!」

つい叫んだ雷雅だ。


暁月(あかつき)さん、そんなことは言っていません。それなら隠里さんはもっと大怪我をしているはずだ」

納屋(なや)と名乗った刑事がしかめっ面で言う。


「隠里さんには骨折どころか打ち身すらない。なのに意識が戻らない――なんらかの薬物が使用されていないか、医師に調べて貰っているところです」

「事件に巻き込まれた?」


「ふむ……何か、心当たりはありませんか?」

「いいえ、何も。龍弥はこちらに来て、たいして経っていません。トラブルがあったなんて聞いてないです」


「ご両親は海外に赴任中……神影(みかげ)さんが保護者代理という事でいいのですよね?」

「はい、わたしの夫の親戚なんです。夫の出張中にこんなことになるなんて。なんて()びれば――」

ハンカチを顔に当て、肩を震わせるひなたに雷雅がほっとする。ひなたは話しに合わせて書類を作る(・・・・・)つもりだ。


 警察に龍弥のことを聞かれ、答えたのは雷雅だった。ひなたはあくまでも狼狽(うろた)えて取り乱している()に徹した。その替わり、影を通じて雷雅に入れ知恵してきた。何を訊かれても、頭の中に答えが浮かぶ。雷雅はそれをそのまま答えた。そしてひなたは文句ひとつ言わなかった。


 訊きたいことは訊き終わったのか、龍弥さんについていてあげてくださいと納屋が雷雅たちを解放し、雷雅とひなたは龍弥の病室に戻った。すると、すぐに医師が顔を見せた。


「脳波に異常はありません。想定される薬物についても調べましたが検出されませんでした」

なぜ意識が戻らないのか判りません、と言う。

「呼吸も脈拍も安定しています――言い難いのですが、どこも悪いところがないのです。とにかく今夜は入院して様子を見ましょう」


 ベッドに寝かされた龍弥を見ると、よくドラマなんかで見るように呼吸をみるためのマスクが被せられている。傍らに置かれたモニターには心電図が規則正しく描かれ、呼吸数や血圧が表示されている。龍弥の身体のどこか、雷雅には判らないところに機械が繋げられているのだろう。


「龍弥、どうして意識が戻らないんだ?」

医師が出て行った後、ポツリと雷雅が言った。するとクスッとひなたが笑った。


「心配ない。龍弥は自分の意思で、意識を奥に閉じ込めただけだ」

「えっ?」

「合図を送ればすぐに戻ってくる」


 そんなこと、ここで言っちゃっていいの? 一瞬そう思ったが、どうせ影に命じて他人には聞かれないようにしているんだと黙っていた。


「そっか――でも、なにがあったんだろう?」

「それは龍弥に訊かないと判らない。影の意識も本体の中に閉じ込めている――ま、おそらく龍弥から、なんらかの情報を得ようとしたヤツ等に襲われたんだ」


狩人(かりびと)の龍弥にも太刀打ちできない相手?」

「うーーん――多分相手も影の狩人(かりびと)

「それって……」


「影の一族の結束が乱れている――強力な闇が出現しているこのタイミングで馬鹿どもが、と思うが、火種を今まで消せなかった結果とも言える」

「闇が裏で手を引いてるってないの?」


 ひなたがゆっくりと雷雅を見た。

「なぜそう思った?」

「いや、なんとなく。そんなこともあるかな、と」

「そうか……」

ひなたは納得していない、なんとなくそう感じる雷雅だ。


「ところでライガ、腹減っただろう? とっくにお昼が過ぎている」

時間を見ると十四時になろうとしている。


「あと二時間くらいしたら煌一(こういち)が来る。ここはわたしの影に見張らせる。表にいる警官も神影(みかげ)流の影、つまり煌一の部下だから龍弥は安全だ――何か食べよう。まだ食堂、やってるかな?」


 病院内の食堂が十五時まで営業していると確認すると、ひなたはまず売店でおにぎりとお茶を買った。そして駐車場へと向かった。


「ライガ、腹が減るのはマスターも同じだ」

ニヤリと笑うひなた、すっかりマスターを忘れていた雷雅は赤面するばかりだ。


 カツ丼が食べたいがきっと食べきれないと悲しげに言うひなたに、つい『半分食べてあげる』と雷雅が言う。嬉しそうなひなたの顔に照れてしまった雷雅はソッポを向いた。


 取り皿を貸して貰って取り分けたカツ丼をひなたが食べ始める。自分が食べる分だけ取ったようだ。ひなたはそれとチョコレートサンデー、雷雅は残りのカツ丼とざる蕎麦で遅い昼食を済ませた。


 気になったことを雷雅が途中で聞いている。

「煌一さんの部下ってどれくらいいるの?」

「神影流の影は全員が煌一の部下と考えていい。人数は煌一に聞いて。で、警察だろうが役所だろうが、影はいる――念のため雷雅のお母さんに二人つけた護衛の一人を龍弥に回したんだと思う」


「母さんに?」

「怖い顔するなって。念のためだよ――お母さんに会ってく?」

「いや……急に来たら母さん、かえって心配しそうだ」

そうか、と言っただけでひなたはそれ以上何も言わなかった。


 煌一が来たのはひなたの予測通り、そろそろ夕方という頃だった。

「煌一が来た」

ひなたがぽつりと呟く。きっと煌一さんは駐車場だ。マスターが煌一さんを見たんだと思った。

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