20 たまり場は 陽だまり
表面上は平和な日常が過ぎていく。
シンヤたちと話しているのを邪魔しに来る龍弥に、とうとう雷雅が『僕の友達を悪く言うな、仲良くしろ』と言って以来、龍弥は邪魔をすることがなくなった。影は陽に従うってことか、と雷雅は思ったが、龍弥に聞いたわけではないから真実は判らない。
態度は改まったものの、いつもくっ付いてくる。が、そこにいるだけの龍弥に文句も言えず放っておいた。すると気を遣ったのか、ユウキが龍弥に話しかけるようになり、戸惑っていた龍弥も少しずつ話に加わるようになった。
シンヤはまだ警戒しているようだけど、ナナとミッツンも龍弥と普通に話すようになって、龍弥を排除しようする気配は消えた。コンコとセツは相変わらず、龍弥が嫌いでツンツンしている。
龍弥のぶっきら棒で不愛想なのは相変わらずだが、クラスの他の連中もそんなヤツなのだと、龍弥を受け入れ始めていた。遠巻きにしていた女の子たちも期末試験の時間割が発表される頃には『夏休み前には告白すると決めた』なんて噂が雷雅の耳にも入ってくる。
告白と言えば、とうとうユウキがミッツンと付き合い始めた。きっかけはユウキが龍弥を仲間に引き込んだことだと聞いた雷雅は、あんなヤツでも役に立ったと内心笑ってしまった。
爪弾き状態の龍弥にユウキが手を差し伸べたとミッツンには見えたようで、臆病者と見られていたユウキの良さに気が付いたのだとミッツンが頬を染めた。
「でもさ、ほっといたらいつまで経ってもあっちから言い出してこないと思ったのよ」
ナナとミッツン、二人がかりでユウキに詰め寄り、とうとうユウキに『付き合ってください』と言わせた。だから付き合ってあげることにしたの、と笑うミッツンに『よかったね』と苦笑するしかない。
雷雅の母の容態は相変わらず――だと思いたい雷雅だが、やっぱり少しずつ弱ってきているように思えた。長年の苦労で心臓が弱っている。長期入院で回復するからと医師に聞かされていたが、本当にそうなのだろうか?
雷雅のその疑問を、やっぱり違うんだと確信させたのは龍弥だった。龍弥は学校の帰りに雷雅が病院に寄るとついてきたが、初めて一緒に行った時、母を見て顔色を変えた。それを雷雅は見逃さなかった。
「俺さ、まだ小さい時、親元から離されて神影の家に行ったんだよ」
その帰り道、龍弥がポツンと言った。
「それ以来、親には会ってない。きっと道ですれ違ったって判らない。親なんかいらないって思ってた。でもさ……母さんっていいものだな」
そうだねと答える雷雅に龍弥はそれ以上、何も言わなかった。きっと龍弥は影から情報を得て、母さんの病状を知ったんだ。そして僕か母さんに同情した。やっぱり母さんの病気は重いんだ……
ユウキとミッツンが付き合いだしたお祝いにみんなでカラオケに行こうと言い出したのはシンヤだった。
「シンヤ、カラオケ、好きだよね」
「ミッツンがカラオケ好きなんだよ、それにナナも」
なるほど、本当の言い出しっぺはナナか、と雷雅が内心笑う。
「もうすぐ期末試験じゃん」
「だからさ、試験勉強を始める前に行くんだよ」
コンコとセツも乗り気だと聞けば、雷雅もイヤとは言わない。
「タツヤも来るよな?」
と言ったのはシンヤだった。驚いた龍弥が雷雅の顔を見る。せっかくシンヤが龍弥を誘ったんだ、雷雅も龍弥に頷く。
「うん、判った、行くよ」
恥ずかしそうに龍弥が答えた――
カラオケは雷雅の門限を考えて、その週の土曜日にした。どうせなら、ゆっくり楽しもうってことだ。
ナナとミッツンが踊りながら歌っているとき、コンコが呟く。
「なんか、夏休みって宿題が大量に出るってアネキが言ってた」
「マジか!?」
シンヤが大げさに嘆く。
「夏休み、会えなくなるね、寂しい……」
セツが悲しげにそう言って、チラリと雷雅を見る。
「終わってしまえばすぐだよ」
ユウキの言葉に、シンヤが
「おまえはミッツンと図書館で一緒に宿題やるんだろ? ま、俺はナナと一緒にお勉強」
と笑う。
「シンヤたちはどこで?」
「俺たちはファミレスとかカフェとかファストフードとか。図書館じゃ、気ままにお喋りできんじゃん」
「あ……」
ユウキが顔色を変え、俺たちもそうしたほうがいいかなと、ノリノリで歌っているミッツンを見る。
なんだったら、みんなで集まらない? と言い出したのはコンコだ。
「都合のいい日だけでいいからそうしようよ。判らないところ、教えてあげる」
「よっ! さすが中間考査、学年一位!」
冷やかすシンヤに、こらっ! と怒るふりをしたコンコ、どことなく誇らしげだ。
「コンコ、勉強得意なんだ?」
とセツ、教えて欲しそうな顔をしている。
「じゃあさ、どこに集まる? できれば学校の近くがいいよね」
「やっぱり、市立図書館、お金かからなくっていいや」
「ユウキのところは小遣い、安いからなぁ……一人くらい何も頼まなくったって判りゃしないよ」
シンヤがお道化たふりでユウキを揶揄う。ユウキの家も雷雅と同じ母子家庭だ。それを知っていてシンヤは敢えて揶揄うようなことを言う。同情されるよりそのほうがよっぽどいい。言われたほうも笑い飛ばせる。
「それじゃあさ――」
黙って聞いていた龍弥が口を開いた。
「ライガの家に行けばいいじゃん。学校から歩いて行けるし、一階が喫茶店でライガのおじさんがやってるから、そこにしたら?」
「えっ?」
慌てたのは雷雅だ。
「ホント? 行きたいっ!」
真っ先にセツがそう叫び、コンコが、『ねっ』と同調する。そこへ歌い終わったナナとミッツンが加わった。
「タツヤ、いいこと言うね! 賛成、ライガん家に一票! はい、満場一致!」
「ちょっと待ってよ、マスターに訊かなきゃ決められない」
焦る雷雅に、
「おじさんのこと、マスターって呼んでるんだ? なんか、かっこいい」
コンコが言い、おじさんじゃないとも言えない雷雅、祈るような眼差しで雷雅を見つめるセツ、シンヤは
「俺はコンコに教えて貰うより、ライに教えて貰いたいな」
と、決まったかのようなことを言う。
「ライも成績いいんだ?」
「中間考査じゃ学年7位――本当は私学の進学校に行くはずだったんだって」
セツの疑問にユウキが答える。龍弥は面白そうに事の成り行きを見ていたが、雷雅が恨めしそうに見るとそっぽを向いてしらばっくれる。
陽だまりに集まるのはいいさ。でも、あそこにはひなたがいる。何を言い出すか判らないひなたがいる――みんながいる前でいつもの調子でやられたらと思うとぞっとする。
結局、店の都合を聞いてみると約束させられた。
「雷雅さまのお友達がこの店で? お断りするなどとんでもない!」
雷雅の意に反してマスターは大喜びだ。
「なんだよ、ライガ。浮かない顔だな?」
ニヤニヤ笑うのはひなただ。
「だってひなたさん、いつもの調子でやられたらみんな引くから。僕まで変な目で見られる」
「そうかぁ? それじゃ友達が来るときはわたしは自室に戻ろう。遠慮しないで陽だまりを使うといい」
ほっとした雷雅が、
「マスター、ご面倒掛けます」
と言えば、マスターが
「はい、心を込めてお持て成しさせていただきます」
とニコニコ答える。
「少しは売り上げに貢献できるかな?」
「売上? とんでもない、ご馳走させていただきます!」
いやそれは拙いと雷雅が言っても遠慮はいらないと言うばかりのマスター、そんなことしたらみんなが来づらくなるから……ライガの一言でやっと折れた。
「それでは格安でご提供させていただくことにいたしましょう」




