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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第3部 愛と憎しみに導かれて

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115 父と子を つなぐもの

 流星(ながれ)が浮かした腰を落ちつける間、彗星(あきら)恒星(わたる)の顔を眺めていたが、軽く溜息を()くと顔をあげた。

「俺の覚醒は高校生のころには始まっていた――雷雅と同じだね」


 影と遭遇したわけでもないし、父に強要されたわけでもない。ヘンな夢を頻繁に見るようになった、最初はただの夢だと思った――

「でもね、父がそれに気が付いてしまった。最近、変わったことはないか? と訊かれて『あぁ、単なる夢じゃなかったんだ』って、自分でも気が付いた。俺は()の一族だ、そして父もそうだ。そう判ってしまった(・・・・・・・)んだ」


 彗星(あきら)の声は穏やかで暖かい。(ほむら)の激しさや(たぎ)りよりも、()が見せる慈愛に近い、そう雷雅は感じていた。


()である運命は変えられない。だが、()としてどう生きるかは自分次第だ……父は俺にそう言うと、さらに『運命に逆らう生き方をしてみないか』と言った」


 影は災厄魂(さいやくこん)を狩り、人の世の平和を維持させる役目を持つ。そして、世を照らし、影を成立させるのが()の役目。それなのに、なぜ()は存在を隠さなくてはならなくなった?


「そもそも災厄魂を生み出すのは誰だ? 父は俺にそう問いかけた。(けが)れを生み出すのは人に(ほか)ならない。ならばその穢れから生み出された(わざわい)を人は受け止める責任があるのではないか。なぜ()と影だけが後始末を引き受けなければならない?」


 フッと彗星(あきら)が笑む。

()として目覚めた者ならとっくに答えが出ていることだ。そう答える俺に父は、納得できない、納得しちゃいけないと言い、()の支配、影の支配から一緒に抜け出そう、だから協力して欲しい、助けて欲しいと言った。父に、何かを頼まれたのは初めてだった――怒鳴り声なんか聞いたことがなかったし、そもそも怒らない。いつでも穏やかに見守ってくれている、そんな父だったんだ。それが戦おうと言う。よっぽどのことだと、俺が思ったって仕方ないじゃないか」


 とっくに出ている答え――心に潜む混沌から人を救う力を神に求めた生身の人間が()であり、その()が生み出したのが影、()と影の存在意義は人の世の平和を守ることにある。それを言っている。その認識は、やはり()である雷雅にも共通して存在するものだ。そしてなんの疑問も不審も持たず、雷雅は受け入れた。彗星(あきら)もそうだという事だ。きっと恒星(わたる)もそうだった。なのに心を変えた。そういう事なのだろう。そう思うのにどこか違和感がある。この違和感はどこからくる? 


「父の初めての頼みごと、わけが判らなかったけど、協力するしかないと思った。俺はね、父親を信頼していたし、尊敬もしていた。好きだったんだよ、父親がね。子どもなら、そんなもんだろう?」


 彗星(あきら)の口調は淡々と、話し始めから変わらない。今日に至るまでの苦悩や怒りや苦しみをすべて捨ててしまったかのようだ。だが、諦めは感じない。


流星(ながれ)の覚醒に立ち会った時、自分は体験しなかった痛みを流星(ながれ)に見た。だからかもしれない、弟は守ってやらなきゃいけないと思った。()にとって、()や影と敵対するのは自身を切り裂くようなものだ。()と影は表裏一体、自身の背を攻撃する痛みを避ける(すべ)は存在しない――親父の計画に協力するのは俺だけでいい。流星(ながれ)の大学卒業を待って、俺は流星(ながれ)を父から隠した。父は……流星(ながれ)を探さなかった。おまえが手を貸したのかと、俺に訊いただけだった」


 雷雅の隣で流星(ながれ)が身を固くしたのを感じる。最初から探されもしなかった。でもそれが本当なら、やっぱり矛盾が生じる。陽彩(ひいろ)恒星(わたる)流星(ながれ)のことも愛していたと言った。その流星(ながれ)がいなくなったのになぜ探さない? それには彗星(あきら)が答えをくれた。


「親父は流星(ながれ)を可愛がっていた。俺より可愛く思っていたかもしれない。そんな(なが)()を心配しないはずはないのになぜ探さないのか……理由は聞いてないが、父にも迷いがあるんじゃないか。早紀(さき)一家が身を隠した時も、すぐには探そうとしなかった。父が早紀さんたちを探したのは、早紀さんたちが何か困っているのじゃないかと思い、助けたいと思ったからだ」


 これには流星(ながれ)が弾かれるように彗星(あきら)を見た。さすがに表情を動かした彗星(あきら)が気まずげに、

「ごめん、おまえに嘘を()いてる。特に早紀一家のことは嘘が多い。早紀たちにもおまえにも、親父は無理強いする気なんかまったくなかった。でも、そう言わなければ、おまえも早紀を身を隠さない。いや、隠れる必要もなかった……俺は親父から、おまえや早紀さんたちを引き離したかったんだ」

流星(ながれ)を見て目を伏せた。


「おまえ、俺が頼まれたのと同じ話を親父に聞かされたら、俺がそうだったように手伝うって言いだしただろ? そうなれば早紀だって自ら進んで巻き込まれると思った。それを防ぎたかったんだよ……()が影を裏切る――誰にも言えない、しかも罰して貰えない罪を背負う。そんなこと、二人にさせたくなかった」


 彗星(あきら)が視線を恒星(わたる)に向ける。

「親父が(ほむら)になることにしたのは、()でなくなるためだと思う。()ではない(ほむら)になれば、影と敵対することで生じる痛みや罪悪感が少しは薄れると思ったんだ。実際は、そうでもなかった。むしろ逆か……()でもなく影でもない、そして()で影で、どちらの痛みも感じるようになった――うん、流星(ながれ)がこんな存在にならなくて良かった。親父に助けてくれと言われてから今日まで、これだけは何の後悔もなく言える」


 そう言いながら顔を上げ、彗星(あきら)が今度は流星(ながれ)に視線を向けた。彗星(あきら)の様子を観察していた雷雅が顔を背ける。そして言った。

「つまり、陽彩(ひいろ)さんに言わせれば、恒星(わたる)さんは優しい人、彗星(あきら)さんにとっては尊敬する大好きな(・・・・)父親」


 雷雅が流星(ながれ)に顔を向ける。

陽彩(ひいろ)さんからも彗星(あきら)さんからも恒星(わかる)さんが、流星(ながれ)さんを虐げているような感じは読みとれない。これ、流星(ながれ)さん、僕を騙そうとしたという事ですか?」


「いや、それは違う!」

流星(ながれ)が答える前に彗星(あきら)が叫ぶように断言した。


流星(ながれ)は俺の指示に従っただけだ。雷雅には父をできる限り悪く言え、と。そうじゃなきゃ――」

「そうじゃなきゃ、僕が恒星(わたる)さんを殺すのを躊躇(ためら)うから?」

彗星(あきら)の言葉を遮る雷雅、雷雅の言葉に驚く流星(ながれ)――


「自分たちじゃ殺せない。だから僕か、影の誰かに殺して欲しかった、そうなんでしょう?」

「いや……」

言い淀む彗星(あきら)を蒼褪めた流星(ながれ)が見詰める。


 彗星(あきら)が雷雅を見詰めて訴える。

「父は苦しんでいた。早紀(さき)の両親が運転を誤って事故死したのも自分のせいだと考えていた――ごめん、あれは本当に事故なんだ。でも、親父が追い詰めたから事故を起こしたと親父は思ったんだよ。でも、だからこそ後に引けなくなった。俺はそんな親父をなんとか止めたかったんだ」


「へぇ、それで?」

声を荒げたのは雷雅だ。

「アンタたちが仲良し家族ごっこしている裏で、関係のない人をどれだけ苦しめたか判ってるのか? アンタたちは自分勝手だ。自分勝手に被害者ヅラして、理屈を()ねまわして、仕方なかったんだって自分に言い訳してる!」

「ライ!」

立ちっぱなしだった龍弥が慌てて雷雅の横に膝立ちになり、雷雅の肩に腕を回して抱き寄せた。


「何が優しい父親だよ? 父親を尊敬してる、だよ? 子どもなら父親が好きでしょう? ふざけるな!」

「ライ、落ち着いて」

「優しい夫、尊敬できる父親、それを母さんと僕から取り上げたのはアンタたちじゃないかっ!」

「ライ……言いたいのはそんな事じゃないだろう?」

激昂し、涙をポロポロ流し始めた雷雅の耳元で、龍弥がそっと囁いた。

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