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神影ひなた の シャドウ・ビジネス  作者: 寄賀あける
第3部 愛と憎しみに導かれて

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113/120

113 癒しを求めて

 ゆっくり一つ深呼吸して、雷雅(らいが)が会場を見渡す。


 全部で六十人ちょっとか? 本体(・・)がいるのは十二人ほど、あとは影でどこを見ているかなんて判らない。だけどこちらに注目しているのをイヤというほど感じる。


「ひなたさんが(おっしゃ)る通り、僕は()の一族です」

そう言ってみて、自分が思っている以上に消耗していることを実感する。声を出すって結構、体力を使うものなんだ――


「ひなたさんと知り合うまで自分が()だなんて知らなかったし、そもそも()だの影だの、まったく知らなくて、この人、頭が奇怪(おか)しいんじゃないかって思いました」

ひなたが何か言うかもと、チラリとひなたを見るが無反応だ。姿勢を正して真っ直ぐ議場内を見ている。


「でも、それからの現実(・・)は、影の一族や災厄魂(さいやくこん)の存在を否定できるものではなく、そして僕自身、自分が()だと、少しずつでしたが自覚せざるを得ませんでした」


 少し違うかな、と思う。自覚と言うか、そうだった、と言うか、不思議なほどすんなり移行していて、まるで生まれた時からそうだったような感覚、でも巧く説明できない。だから、自覚(・・)と表現した、それでいいと思った。


(ほむら)と言えど、元は()だった男が、今回、影の皆さんに多大なるご迷惑――いや、迷惑なんてもんじゃない、被害? えっと……」

雷雅を支える龍弥(たつや)の腕に力が籠る。耳元で『ゆっくりでいい、落ち着け』と囁いてくれる。


(ほむら)()より生まれたる者――その(ほむら)がトンでもないことをしました。()の一族本流、(あかつき)の名を継ぐ者として影の皆さんに心より謝罪します」

深々と雷雅が頭を下げる。フンと鼻を鳴らす音がいくつか聞こえた。


 ゆっくりと頭を上げた雷雅が再び会場を見渡す。そして一度目を閉じ、そして見開いた。


「ひなたさんが言った通り、あの男の処分は僕に任せて欲しい――謝罪したばかりで何を言うかと思うかもしれない。でもそうして欲しい」

予測通り、聴衆に動揺が走る。煌一(こういち)もひなたも、それを鎮めようとしない。二人の当主も困惑して雷雅を見続けるだけだ。


「僕は!」

そんな中で雷雅が声を張り上げる。

「僕は命じることもできる、でもそうしたくない。どうか、判ってください!」

フラついた雷雅を龍弥が支える――見ていた影たちに、また違う動揺が広がった。


 だんだんと静かになる会場で照晃が立ち上がる。

「判った、炎影(ほかげ)()に従う。影は()を守り、()に従う――おまえたち、静かにしないか!」

一喝されて場が鎮まる。


「だが、()の一族総本家の当主よ。あの(ほむら)の処分をどう考えているのかを聞かせて欲しい――それぐらいは知っておきたい。影にだって(じょう)がないわけじゃない」

照晃は父親の命を奪われている。それを言っているのだと思った。もっともだと思った。言い終えた照晃が席に着く。


 頷いた雷雅が、

「月影さんも同意と思っていいのでしょうか?」

と、静流(しずる)を見る。当主は輝流(ひかる)だが、意見を言うのはいつも静流だ。


 静流が雷雅を見もせずに答える。

「影は()に逆らわない――面倒だから(めい)じてくれていいのに」

後半は愚痴だろう。雷雅は影が納得する理由を用意している、そう感じている。だから納得するしかない。でも、意地(・・)がそれを拒んでいる。命じてくれればその意地もひっこめるしかなくなるのに……静流としてはそんなところなんだろう。


 話を再開させる前にひなたを見ると、ひなたも雷雅を見て頷いた。うん、これでいいんだ。雷雅が自分に納得する。


「男は影への復讐を望んだ。だがその本質を、僕は能力(ちから)への憎しみだと考えています。できれば男にそれを自覚させたい。でもたぶん無理――無理な場合、男の能力(ちから)を無効化しようと思います」

そんなことができるのか? 囁きがちらほら聞こえる。


「僕にはできます、そしてこれは()である僕がしなくてはならない(・・・・・・・・・)ことだ。僕が()の本流ということもあるけど、男が自覚する復讐の対象が影だってのが最大の理由です……憎しみの対象である影が報復すれば憎しみを煽るだけだ。だから、僕がしなくちゃならない。それにもし、影が男に報復するとなったら、男を殺すしかないのでは? 僕は――僕は影にそんなことして欲しくない。影が狩るのは災厄魂(さいやくこん)だけでいい。僕はそう願う。影たちに、自身を穢すようなことをして欲しくない!」


 はっと雷雅が黙る。話しているうちに興奮してしまったのが自分でも判る。最後は叫び声みたいになった。


 慌てて龍弥を見ると、龍弥はずっと雷雅を見ていたようだ。すぐに目が合い、龍弥が瞳だけで微笑んでいるのが判る。大丈夫だよ、それでいいんだ、そう言われた気がした。


 ひなたが立ち上がる。

「異論のある影は? あるなら今だ。あとからの申し立ては聞かない」

グッと照晃が言葉に詰まり、静流はすっと立ち上がった。


「さっきも言った、影は()に逆らわない。その少年と神影(みかげ)に任せる――総本部長選の日程が決まったら連絡してくれ。今日はもう無理だろう?」

そしてクスリと笑う。


「その子、もうヘトヘトじゃんか。さっさと休ませてやりなよ」

じゃあね、ひなた、軽く手を振り出口に向かう。輝流(ひかる)も立ち上がり、議長席に向かって一礼すると息子の後を追った。月影はゾロゾロと退場していく。


 龍弥がゆっくりと雷雅を座らせている間に照晃率いる炎影(ほかげ)も退場を始めた。だが照晃は、出て行けと流派の影に命じた後も座ったままだ。


 月影が誰もいなくなり、炎影も照晃一人となった時、照晃が呟いた。

「神影は――内部で揉めそうだ。真輝(まさき)さまの了承をとったんだろうか?」

独り言を装った照晃、それに煌一(こういち)が独り言で答える。

「幾つになっても母親の存在は重いんだな。親父、しょげて元気がない――今なら何でも言うこと聞かせられそうだ」


 フッと笑って照晃が立ち上がる。ドラ息子め、口の中でそう言って部屋を出て行った。


 少し休もうとひなたが言い、龍弥が飲み物を買いに走る。今度はココアだった。

「あったかいのは流石になかった」

「いや、冷たいほうがいい――うん、あっまい、美味しい」

うっすら笑う雷雅を見てひなたが申し訳なさそうに言う。


能力(ちから)を使って雷雅を回復させたいところなんだが――今日はわたしも能力(ちから)を使い過ぎている。限界なんだ。すまない」


 きっと恒星(わたる)に目一杯、能力(ちから)を使ったんだ。ひょっとしたら蘇生させたのかもしれない。雷雅に殺人を犯させないために――


「やっぱりひなたさん、ヒーラーなんですね」

雷雅の質問に、あいまいに笑むひなただった。


 窓の真新しいガラスを通して、太陽が傾き始めているのが判る。時刻は十七時を回ったところ――


「そう言えば、龍弥が言っていたけれど、稲妻を落としたって?」

ふと、思い出したのだろう、ひなたが尋ねた。


「落とした、って言えるのかな?」

答えながら雷雅が立ち上がる。

「その話、あとでもいいでしょう? 早く終わらせて陽だまりに帰ろう」


 三階へはエレベーターを使った。部屋に入ると恒星(わたる)は布団に寝かされて、未だ意識不明の状態だった。


「やぁ――」

雷雅を見て、彗星(あきら)が複雑な顔をした。なんと声をかけていいか、判らなかったのだろう。陽彩(ひいろ)はじっと雷雅を見詰めた。やっとのことで涙をこらえている、雷雅にはそう見えた。流星(ながれ)はチラリと雷雅を見たが無言、すぐに視線を恒星(わたる)に戻した。


 畳敷きの部屋に靴を脱いで上がり、寝かされている恒星(わたる)の枕元に近寄る。向こうに彗星(あきら)と陽彩、こちら側に流星(ながれ)、マスターは入り口付近に正座していた。煌一とひなたもマスターと並んで座り、龍弥だけが雷雅について、部屋の中に進む。


 流星(ながれ)の隣に雷雅も座る。龍弥はすぐそばに立ったままでいる。

「改心させられると思いますか?」

雷雅の問いに誰も答えなかった。

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