表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
櫻華の桜  作者: shio
第八章 二十三夜
98/138


「櫻華様のたもっているもの、志すもの……戦いが起こるかもしれないこの時に、いえ、戦いが起こるかもしれないこの時だからこそ、戦に臨み己を成そうとしていること。私も理解しているつもりです。ですが――ですが、鞘の意は知っているでしょう。鞘は収め、押さえるものではありません。自らを傷つけないためのものです」


 顕華は席を立ち、手を伸ばした。櫻華の頬に触るように、だけれど触れることはせず、指先にその心を託して。


「櫻華様……微笑みまで、亡くす必要はないはずです」


 櫻華は黙った。顕華の伝えたいことは分かる。その純粋さも、穢れのない優しさも。自分を想ってのことだとも。

 だけれど……そう、だけれど。

 我を通すわけではない。だけれど、微笑み舞うのは、それは自分の舞ではなかった。戦いの舞いではない。戦いの高揚はあっても、死の歓喜があっても……顕華がいう優しい微笑みとは違うもの。

 ――などと、そう自分に言い聞かせているだけだ。


(分かってる……)


 顕華は、日常で微笑みをもっても、といっているのだ。それは、わかっている。

 だけれど……それでも。


「……ごめん」


 ――わたしは、戦いにしか生きられぬ。


「っ――」


 その、櫻華の悲しい微笑みに――顕華の内は激しく――だけれど静かに重く揺らめいた。


「いえ……こちらこそ、申し訳ありませんでした。私はまだ……」


 席へ座り、顕華はそこで、くっ――と言葉を飲み込んだ。震える心を抑えるように、表に出さぬように……出してしまえば、涙が出そうだったので。


「私はまだ、櫻華様ときちんと向き合えていなかったようです……でもだからこそ、私はもっと櫻華様と近づきたい。私は――」


 顕華は、竜女の少女は燐と瞳を向け、凛と言葉を発した。


「私は、櫻華様のお側にいたい……これからも、永く近くにいさせていただけないでしょうか」


 願うように、誓うように――それはまるで、竜女が仏に誓ったように――顕華の声は静かに深く音を響かせた。


「…………」


 顕華の瞳に、その奥に宿る想いに、櫻華はただこくりと頷く。

 ――だけれど、その時になって顕華がすごく幼い少女にも見え、櫻華は――らしくないこととは自ら思いつつも、席を立ち顕華へと近づきそっと頬を撫でた。

 見えない顕華の優しい心の涙を拭うように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ