八
「櫻華様のたもっているもの、志すもの……戦いが起こるかもしれないこの時に、いえ、戦いが起こるかもしれないこの時だからこそ、戦に臨み己を成そうとしていること。私も理解しているつもりです。ですが――ですが、鞘の意は知っているでしょう。鞘は収め、押さえるものではありません。自らを傷つけないためのものです」
顕華は席を立ち、手を伸ばした。櫻華の頬に触るように、だけれど触れることはせず、指先にその心を託して。
「櫻華様……微笑みまで、亡くす必要はないはずです」
櫻華は黙った。顕華の伝えたいことは分かる。その純粋さも、穢れのない優しさも。自分を想ってのことだとも。
だけれど……そう、だけれど。
我を通すわけではない。だけれど、微笑み舞うのは、それは自分の舞ではなかった。戦いの舞いではない。戦いの高揚はあっても、死の歓喜があっても……顕華がいう優しい微笑みとは違うもの。
――などと、そう自分に言い聞かせているだけだ。
(分かってる……)
顕華は、日常で微笑みをもっても、といっているのだ。それは、わかっている。
だけれど……それでも。
「……ごめん」
――わたしは、戦いにしか生きられぬ。
「っ――」
その、櫻華の悲しい微笑みに――顕華の内は激しく――だけれど静かに重く揺らめいた。
「いえ……こちらこそ、申し訳ありませんでした。私はまだ……」
席へ座り、顕華はそこで、くっ――と言葉を飲み込んだ。震える心を抑えるように、表に出さぬように……出してしまえば、涙が出そうだったので。
「私はまだ、櫻華様ときちんと向き合えていなかったようです……でもだからこそ、私はもっと櫻華様と近づきたい。私は――」
顕華は、竜女の少女は燐と瞳を向け、凛と言葉を発した。
「私は、櫻華様のお側にいたい……これからも、永く近くにいさせていただけないでしょうか」
願うように、誓うように――それはまるで、竜女が仏に誓ったように――顕華の声は静かに深く音を響かせた。
「…………」
顕華の瞳に、その奥に宿る想いに、櫻華はただこくりと頷く。
――だけれど、その時になって顕華がすごく幼い少女にも見え、櫻華は――らしくないこととは自ら思いつつも、席を立ち顕華へと近づきそっと頬を撫でた。
見えない顕華の優しい心の涙を拭うように。




