六
――サァァァ、と風が流れる。
小満の刻も過ぎた頃、暖かくなってきたとはいえ夜はまだ少し寒い。山深いこの場所ということもあるのだろう。空気が冷め、空が澄んでいる。
星と月を見る。月の閃光と星の瞬きは山を木々を葉を照らし、闇の中に静かな生命の輝きを浮かび上がらせていた。今日は二十三夜――月待の祭が行われる日でもあり、一説には神の示現の日ともいわれている。
ひとひら、ふたひらと――桜の花弁が舞う。導くように、受け止めるように――櫻華は掌を上にし、そっと指を伸ばした。
月と星に照らされ桜は踊る。はらはらと舞踊する散華の桜に櫻華は――掌に舞い降りた一片の花弁をくっと握り、静かに瞳を閉じた。
神が示現するとされる二十三夜。
示現――仏や菩薩が衆生を救うために種々の姿に身を変えてこの世に出現するという意。だけれど、竜に竜女、緊那羅に夜叉。思えば、自分の周りにはすでに神が示現している。それは人を救うものかどうかはわからないが、少なくとも目の前に現実に。
そしてまた、その神達にとって、自分はどういう存在であるか――
(――戦いたい)
櫻華はそう願った。神など人間など、それは自分にとって――枝葉に過ぎない。
戦う自分、刀である自分。その為だけに自分は在る。
――――サァァァァァ――――
桜は舞う。何も言わず、静かに、だけれど桜は桜のまま、その他に成る事はなく、そしてそのまま散り生き、散り逝く。
櫻華は桜を舞わせ続ける――一人夜に立ち、瞳を開け月を眺め――
その姿を見つめる幼い少女が一人。
竜女は櫻華を、散華の桜を見つめ、ふと月光に照らされた瞳に悲しい光を宿らせると、そのまま何も言わずその場を離れた。
「――良くお似合いです、櫻華様」
櫻華が部屋へと戻り、出迎えた顕華が最初に言った言葉がそれだった。
学生の正装ということで今まで制服を来ていた櫻華だったのだが、風呂へと勧められ、上がってから用意されていたのが顕華と同じく蒼に紺の模様が施された装束だった。顕華には竜胆の模様、櫻華には桜の模様が入っている。
「こちらがお誘いしたことではありますが、長い道のりになってしまい申し訳ありませんでした。今日はゆるりとお休みになってください」
微笑み話しながら、顕華は供のリンと一緒にお茶の用意をしていく。
リンは相変わらず今だ櫻華への警戒はあるようだが、顕華は本当に楽しそうに櫻華を迎えていた。新たに来た客人のお世話をすることが楽しくて仕方がないらしい。屋敷についてから事細かに気を使い、自ら進んで全てを用意をしていた。




