四
「お二人は竜を治める王、八竜王が内の二人、和修吉竜王と摩那斯竜王です」
横から付け加えてくれる顕華に櫻華は頷きつつ、もう一度二人の竜王へと視線を向けた。
「……妙月櫻華といいます」
櫻華もまた名乗り、頭を下げる。成程――とは櫻華も思ったことだった。一目で分かったこと、おそらくはこの二人の竜王は神楽と同等の力を持っていると。
そしてまた、改めて思う。「散華の子」「散華の娘」――竜王と呼ばれる者まで出てくる今の自分という存在――
「お姉様方、櫻華様は私の友人としてお招きしたのです。お出迎えは嬉しいですが、今回のこと、我が家とはなんの関係もありません」
櫻華の心を知ってか、顕華は一歩踏み出し凛と声を響かせた。その声に、摩那は僅かに困ったように――それは幼子の我がままを聞いているかのような困惑に似ている感じもしたが――ともあれ、竜王として姉と呼ばれる者として摩那はふっと息をつき口を開く。
「顕華、散華の娘を連れてきたことはいい。だが、我らになにも言わず、供一人で行くなどということは止めろ」
「ごめんなさい、心配をかけてしまったことは謝ります……ですが」
顕華は頭を下げ――スッと二人を見据えた。空気が、纏うものが変わる。その存在を示すかのように、顕華は言の葉を紡ぎ深と発す。
「私は竜女です」
顕華のその声、その視線に摩那と和修は少しだけ瞼を伏せた。それはどういう意なのか、どういう情なのか――二人の竜王自身にも分かっていない。竜女という存在はそれだけの意味がある。
――自分が選ばれたなどとは思わないが。
櫻華は内で呟いた。経典に曰く、竜女は八竜王が異を唱える中、ただ一人仏の元へ行き、そして、女人成仏を顕した。
おそらくは、自分を――散華のことを知った時、八部衆では喜びよりも迷いがあったはずだ。人間の不信から戦を起こそうという時に、散華が現れた。散華は人しか使えない。つまりは、散華の術者は人間の側に立つ――八部衆の多くはそう考えたはずだった。当然、竜が族も。
そんな中、顕華は供を一人連れて櫻華に会いに来た。まさにその名の通り竜女の如く。そして、それは――竜女の行動には『間違いはない』。摩那と和修が感情を隠すように瞼を伏せたのはその為だろう。顕華を認め信用していても、いや、自分たち二人が顕華の側についたとしても、八部衆や竜が族の皆はそうとは限らない。




