四
「おかえりなさい――ああ」
神無は胸の前でぽんっと手を叩き、楽しそうに問いかける。
「殺したのですね、神楽」
「ああ、殺した」
「どうでしたか?」
「面白くはあった。が、興には欠ける。血はいいが、血にも高低があるものだ、と考えていた。『華』がなければ艶がない」
そう答え、そして、
(――あやつ、櫻華のほうが面白かった)
それだけは内で呟き、神楽もにこと微笑む。
「まあ、幼子の戯れ程度には楽しくはあった」
「そうですか。よかったですね」
神楽の言葉に頷き、神無は何事もなかったように『世間話』を終わらせた。
「……殺した……?」
だが、神威だけは世間話で終わらせることはできない。震える声で呟き、そして、神楽に瞳を向けた。
「神楽、誰を……」
「誰を?」
神楽は笑う。我が姉ながら何を言っているのか。
「父上と母上。あとは、その周りにいる者も殺した」
「っ」
「まったく、我が親ながらあの『程度』だとは思わなかった。周りに居た者もしかり。同族でも、遊びの相手にもならぬとは」
「……神楽……神楽っ、あなたはっ!」
一歩踏み出し……だけれど、神楽の視線に神威は足を止めさせられ、だが言葉は止まらず怒りと悲しみに神威は声を震わせた。
「父、母を……親を殺したというのですか!」
「親、ともいえぬだろう姉上。わかっておろう」
今更なことだった。わかりきっていることを何故問いかけ、姉はこんなにも戸惑っているのか。
「父の子かも、母の子かも分からぬ。それどころか、知らぬところでどれだけ兄弟がいるか。我らとて、本当の姉妹かどうか」
「っ……!」
「安心していい。わしは姉上たちを気に入っている」
神楽は微笑んで伝え、そして、再び歩き出した。
「――ああ、そうだ神無姉上」
「なんですか?」
「後は頼む」
「はい、わかっていますよ」
神無も微笑み答え、そのまま神楽を見送った。
「さて、綺麗にせねばなりませんね。人を呼びましょう」
神楽が去った後、紅に染まった廊下に視線を落とし神無は優しい言葉を紡ぐ。
(姉上……神楽……)
神威は感情乱れたまま、言葉なく二人を見るしかできない。
「ああ、そうだ、神威」
「……はい、姉上」
「奥の間を綺麗にした後、主な者に集まるよう伝えてください」
神無はそういって微笑む。
「私が、緊那羅を継ぎます。仕様がありませんね、父も母もいないのですから」




