九
「もう知っているとは思いますが、防人学院では体術、武術、術式が必須課程になっているんです」
巴は流れるように説明していく。神楽に視線を向けたまま、淀みなく慣れたように。
「体術、武術は今の道着で、術式ではまた別の道着になります。道着というよりは術衣ですが、術衣は術との相性もありますから識さんはそれを見てから作ることになるはずです」
「そうか」
神楽は流れる話そのままに聞き流しながら同じ返事を返し、巴から視線を外した。
離れた場所には担任でもあり、そして、体術の担当でもある小折芹奈が何人かの学生に囲まれて話をしていた。年齢を考えれば小柄な姿に短い黒髪、眼鏡をかけた可愛い顔立ちは若いというより幼いといったほうがいいだろう。学生たちと一緒に居ても違和感がない。
一見して、そして、声を聞いても頼りない印象を受ける……というより、事実頼りがない芹奈が体術を教えているというのは不思議な感じがするが、よくよく見てみれば確かに身体の運びも無駄がなく動きも淀みがない、ようにも感じなくもない。どちらにせよ、性格を考えれば護身術の類を身につけているのだろうが――
(学生と変わりはないな)
すぐに興味をなくし神楽は考えるのを止めた。教える程度の技量はあるのだろうが、役に立たなければないのと一緒だ。
(それを考えれば、こやつのほうがまだマシか)
再び隣に居る巴へと視線だけを向ける。気にしていなかったが、いつの間にか自分たちの周りに数人の学生が集まっていていた。
「四埜宮さん、私と組み手しない?」
「ごめんなさい。私は……」
「駄目だよ、巴は識さんとするんだから」
「あ、そっか。う~ん、今日は四埜宮さんとやりたかったんだけどなぁ」
「じゃあ、次の時間にやりましょう」
「え~! それなら、私のほうを先にしてよ」
準備運動を終えたのか、巴の周りに集まり楽しそうに談笑する女学生たち。同学年ながらも、その眼差しと話し方には尊敬と憧れが多分に入っている。
いや、同学年だけではない。学生会長ということもあってか、自分の教室以外でも同じような眼差しを送ってくる者は数多くいた。そして、それは学生だけではなく教師までも同じような印象を持っている節がある。聞けば――いや、聞かされた話では、家柄も良いらしい。父は政府の議員らしく学院長とも知人ということだった。
(学生会長であり、成績は優秀。綺麗な顔立ちに家柄も良し。優しい性格で皆にも慕われている、か)
加えて、
(武術、体術、術式。技術では多少及ばなくとも、力量では教師に匹敵するだろう。徳もある、器もある、力も度胸もある。それに比べて)
――まるで雲泥の差だな。
笑みを浮かべて、遠くに一人居る黒髪の少女へと顔を向ける。




