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櫻華の桜  作者: shio
第七章 血化粧
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 ――ポツ、ポツ――紅の雫を落としながら。

 神楽は陽の閃光を浴び、外を見つめていた。穴倉のような奥の間より、やはり外が良い。

 風が心地いい。成程、とも思う。親殺しとは案外――


(心地良いものだな)


 と、神楽は思った。殺したいとは思っていた。一度しか経験できぬこと……どれほど面白かろう、と考えていた。それだけの愉悦はあった。少なくとも期待以上には。

 戦いにもならないただの殺しだったが、『親』というだけの心の快はある。心の奥底が血溜りのように黒く重く淀み、そこに垂れている蜘蛛の糸を亡者の手が這い上がっていくような、そんなゾクリとした感触が全身を覆っている。

 ――が、それも暫くの事。返り血で熱くなった身体が風に当たり冷えていくにつれて、そんな感情も急速に無くなっていった。

 その後は何事もなかったように、


「さて、風呂にでも入るか」


 そう呟き、神楽はまだ乾いていない生々しい鮮血を身に纏ったまま、血の雫を落としながら廊下を歩みだす。


(そういえば、血を纏い、紅い雫を落す櫻華は艶やかだった)


 成程、血にも種類があるものだ。櫻華が纏った自身の血は艶やかで鮮やかだった。それは、ほれぼれするほどに綺麗なものだった。まさに、紅に染まった桜花のように。


(逸れに比べ)


 穢れた血では、血化粧にもならぬ。そう感じると、些かの快も血の温度とともに冷めていく。我が親ながら『その程度』にもならぬとは――


「神楽!」


 つい半刻前と同じ声が聞こえてくる――が、その声の主は神楽の姿を見て、絶句した。


「おう、姉上」


 何事もなく振り返る神楽に、声の主、神威は元々白い顔を更に白くさせ震える声で続ける。


「……なにを、していたのです」

「なにを? はは、そうだな」


 神楽は笑った。優しく気の弱い姉。本当に哀れで可哀相とも思える。

 この血が誰のものか知れば、果たしてどうなるか。


「――あら、神楽」


 春風のような優しい声が響く。その暖かい声に、神楽は視線を向ける。


神無かんな姉上」


 呼び、神楽は笑みと視線の形を変えた。神楽には姉が二人いる。神無は緊那羅の長女――いや、今はもう緊那羅が族の長になるか。

 菜の花色の髪は神楽と同じだが、肌は白い。そして瞳は金色に輝いていた。鮮やかな紅の生地に彼岸花が花開いた艶やかな着物を纏い、穏やかに歩いてくる。ふわりと微笑み、紅に染まった神楽を見てもその笑みは些かも変わらなかった。


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