六
「申し訳ありません、紹介が遅れましたね。彼女は竜胆といいます。私の――大切な友人です」
「顕華様っ」
慌てる少女――長い黒髪を後ろで結み顕華と同じく蒼い装束を纏ったリンへと櫻華は目を向けた。友人と現したのは顕華の優しさによるものだろう。おそらくは幼い頃からの供人に違いはなかった。
とはいえ、護衛もかねているのだろうが、八大名家――八部衆と見ると些か危なく見えた。この白峰学院の女学生に比べれば勝るが、神楽などと対すると考えるなら足りない。だけれど、それもしょうがないことかもしれなかった。リンは八大名家の者ではないだろう。自分と同じ、人間だった。
こちらの視線に気付いたのか、リンは力を込めた瞳をこちらに向けた。警戒しているのだろうが、不思議と怖さはない。殺気がなければ……命を賭けたものでなければ、櫻華の心は動かない。
ともあれ、
(……竜女)
顕華の言葉に、櫻華は成程と納得した。竜女のことは知っている。知恵利根にして八歳という幼さで女人成仏を顕したと経典には記されている。それをそのまま受け取るわけではないが、少なくとも目の前の少女はそう現せるだけの心と器を持っていた。そして、こちらが竜女のことを知っていることを悟っているのか、顕華は何もいわず――まるで言葉は不要と視線だけで確認した。そのことも、この少女が聡明であることを伝えていた。
竜女――櫻華はもう一度内で呟いた。顕華は神楽と立場的には同じだった。少なくとも、夜叉の女とは全く違う。ともすれば、今ある八部衆の現状を動かすことができる一人だろう――経典で書かれている通りであるならば。竜が族では間違いなく中心の一人であるはずだ。
そんな人物が自分に会いに来た――もう一度、少なからず陰鬱な気持ちも起こる。自分の一念は不動でも、明らかに敵意をもっていない顕華に対して無言を貫くわけにはいかない。言葉を発するという事は、自ら何かを決め、選択するということだ。言葉の重さは十分に知っている。
「率直にお聞きします」
しばらくの沈黙の後、そう言葉を発したのは顕華だった。おそらくは、こちらの気持ちも分かっているだろう。だからこそ、何の裏もなく真っ直ぐに質問した。
「今回の事――八部衆の事をどうお考えですか?」
言葉の重さは十分に知っている――そのことをもう一度自分の内に刻む。発した言葉は元には戻らない。なかったことにはならない。櫻華は僅かに瞼を伏せ――そして、顕華を見つめた。




