一
皐月――夏の気が立ち始める立夏が季節。
新緑の陽の輝きに目を細めた後、穢れなき雪のような純白の衣を纏った少女は視線を上げ空を見つめた。
蒼天の空はどこまでも蒼く澄み渡っていた。
陽の閃光、風の流れなどは目に見えないが、実として確かに感じることができる。
季節の流れ――香り、温もり、息吹、そのどれも目には見えないが確かに有り、感じられる。目に見えないもののほうが確かで真実あることのほうが多い。
目に見えるもののほうが余程不確か――表はいくらでも作られるのだから。
少女は――表情には出さず――愁いを込めて瞼を閉じた。この場に来るたびに感じること。だけれど、慣れる事はない。慣れは諦めと同じとなる。
思えば、我らにも……いや、もっといえば一番近くに居た上首である我が一族にも責はあるのだ。それを認めもする――だけれど。
(そう、だけれど)
事、ここに至ってしまっては打開するのは難しい。そう思う。出来得るなら、自分がもう百年早く生まれていれば、あるいはどうにかできたかもしれない。完全な解決とはならなくとも変化の土台は作れたはずだ。
(……だけれど)
三度思う。だけれど、早く生まれなかったことを恨んでも仕方のないこと。そして、祖先の生きてきた歴史をお恨みすることなど絶対にない――
愚痴になっていることに気付き、少女は自分を叱りながら瞼を開けた。空を見つめる。遥か続く、蒼輝の空を。
(何か一手。何か一手、大きな変化があれば)
そこから変える事が出来得るかもしれない。問題は、時を待つか時を作るか。
自ら動くのは難しい。が、時を逃せば取り返しがつかない事と成る。時間はそうない。
(何か一つ――)
内で再度呟いた、その時だった。
「――散華の術者だと?」
――――――――――
「確かなことなのか」
「はい、白峰学院の生徒だと」
「なんだと……防人でもない、ただの学生ではないか。しかも、『魔』が現れたと報告があった学院か。まさか、その学生が……」
だとすれば、多くの者がその力を見たことになる。髭をたくわえ洋装に身を包んだ男は苦々しく内で呟き――それは、『散華』の意味するところが大なる事を知っている証でもある――頭を抱えた。
「大変なことになったな。もう、話は知られているのだろう?」
「はい、すでに動揺はでてきております。おかしな者が近づくことも容易に想像ができます」
「祭り上げられて、錦の御旗にされても困る。早急に手を打たねばならんな」
厄介な者が現れた。それはある意味おかしな動きをしている八部衆よりも厄介だった。上に報告することはもちろんだが、情報を止めることも考えなければならない。誰でも関わることができる学生というのも問題だった。どこにどんな絆が持たれるか分からない。
「しかし、散華の術者とは……」
「そのお話」
声に振り返り、男は「ぁ」と口の中で声を洩らした。散華の術者の話、もっと周りに気をつけなければならなかったのだ。その迂闊さを今更になって呪う。
「私にもお聞かせ願いませんか?」
よりによって、と隠せず動揺する男に少女はそう言い、にこと柔らかく微笑んだ。




