八
白峰学院の廊下や階段などは木造のままになっており、その長い歴史を残したままの古い造りになっているが、何度かの部分的な建て直しの甲斐もあって校舎は綺麗に整備されていた。
古い趣と伝統と格式が刻まれた校舎――外観的には女学院らしく着物に袴といった姿が似合いそうだが、五十年前から学生たちの服装は白いシャツに紺のリボン、紺のスカートといった制服になっている。控えめなおとなしい色使いにしたのは、校舎に合わせようとしたせめてもの気遣いなのかもしれない。
「はーい、皆さん。準備運動が終わったら二人で組んでください」
芹奈の声が響く中、青空の下、校庭に学生たちが集まっていた。だが、学生の今の姿は制服ではない。いや、それ以前に校庭というのも正確ではないだろう。
詳しく言えば、学生たちが今集まっているのは校庭の一角にある訓練場と呼ばれる場所だった。一角といっても、当然だがかなりの広さがある。でなければ訓練場とはいえない――特に防人の訓練に使うとすれば。
そして、学生たちの服装……訓練場というのであれば運動着を連想しそうだが、今の格好はある意味校舎に合っている服装になっていた。
「ふむ」
神楽は自分の真新しい白い着物と黒い袴を見下ろし、次に周りの学生へと目を向けた。そう、今の生徒たちの格好は皆道着姿だった。
「驚きました? 今の時代、道着を着るのは防人の訓練を専門にした学院くらいなものですし。他の学院では運動服ですから」
「そうか」
巴の説明に神楽は軽く頷いた。普段が袴姿なので慣れてはいるのだが――逆に、興味本位で着たセーラー服なるものに後悔したくらいなので驚くよりも落ち着いたくらいなのだが――まあ、わざわざ報告することでもないので黙っておく。
あんなヒラヒラしたものに、よくもまあ慣れるものだ。運動服というものがどんなものかは知らないが、元より「服」というものは好きではない……などと、どうでもいいことを考えながら、
(しかし)
神楽は内で呟き、さして興味の無くなった周りの学生を見回していった。
朝、自分が転入してきてから数時間――だが、たったそれだけの時間でも、ある程度の事は分かってくる。学院の実情、そして、学生たちの状況も。
視線を動かし、最後に隣に居る女学生、巴へと目を向けた。ややうんざりした心が出そうになるが、それは表には出さずに。
四埜宮巴。神楽が入った教室の委員長であり、学生の代表である学生会長でもあった。
長い黒髪に白い肌、すらっとした細身の身体に可愛いというよりは美人の分類に入る顔立ち。一見、深とした雪の静けさと凛とした冷たい印象を受けるが、話してみれば口調柔らかく笑顔の優しい柔和な性格をしていた。
自分――神楽に対して敬語を使っているのは名家という理由もあるかも知れないが、その柔らかい優しい性格によるところが大きいかもしれない。ただし、変に緊張せず、物怖じもしないまま自然と話すことができるのは、柔和なだけではなくそれなりに肝が据わっている人間なのだろう。少なくとも、担任である小折芹奈よりは。それを考えれば、学生をまとめる立場に在るというのも頷ける。そして、自然と自分の世話役のようになってしまったことも。




