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櫻華の桜  作者: shio
第五章 櫻華の桜
77/138

十七


「そんな……そんなのは……」

「分かっているか? では、何を聞きたかった?」


 黙る巴に、神楽はなお続けた。笑う顔は変えず、だが、その内は変えて。


「それとも、なにか特別なものがあってほしかったか? 防人の主の末裔などとでもいえば満足だったか?」


 嘲りを込め笑う。この娘が『何を求めているのか』など、手に取るように分かっている。だからこそ笑った。


「特別な家系、特別な人間、それとも、特別な運命でもなければ才ある人間ではないか?」


 面白くも無く、この娘の底を嘲った。


「そうでなければ、力を信用できないか?」


 黙る巴。

 こんなものだろう。同じ無言でも、櫻華とは大きく違う。話す価値も甲斐もない――が、神楽は口を開いた。


「己の怠惰を棚に上げて、人の才を信じぬか」

「っ、違います! 私はそんなことを言ってるわけじゃ……!!」

「櫻華は」


 声を上げる巴を無視し、神楽は静かに言い放った。

 分からずとも、分からせずともいいが、言うだけ言わねばならないだろう。

 すでに違うことを。すでに、そして、最初から櫻華の『場』は違うことを。


「選び、力をつけだだけだ。己の場に居続けるために」


 ――死に場所に居続ける為に。

 それは心の内だけで呟き、神楽は階段を降り始めた。


「識さんっ! 私は……!」


 巴は呼びかける……が、その後の言葉は続かなかった。


「強いて違いをいうのなら」


 降りる足を止めることなく、神楽は一言いう。重く低く。


「生き方が違う。それだけだ」 


 たとえ同じ時を生き、同じものを学び、同じ修練を受けようとも、心に何を持つかで自ずと結果は違ってくる。それだけだ。


「それ以外に何がある? 人の差などそれだけだろう」


 神楽は振り返ることなく笑う。後ろにいる人間のことなどは意にもかけずに。


「…………」


 巴は唇を噛み締めると、俯きその場に立ち尽くした。

 進むことも退くこともできず、神楽の後ろ姿を見ることすらできず、その場にただ一人ずっと――


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