十七
「そんな……そんなのは……」
「分かっているか? では、何を聞きたかった?」
黙る巴に、神楽はなお続けた。笑う顔は変えず、だが、その内は変えて。
「それとも、なにか特別なものがあってほしかったか? 防人の主の末裔などとでもいえば満足だったか?」
嘲りを込め笑う。この娘が『何を求めているのか』など、手に取るように分かっている。だからこそ笑った。
「特別な家系、特別な人間、それとも、特別な運命でもなければ才ある人間ではないか?」
面白くも無く、この娘の底を嘲った。
「そうでなければ、力を信用できないか?」
黙る巴。
こんなものだろう。同じ無言でも、櫻華とは大きく違う。話す価値も甲斐もない――が、神楽は口を開いた。
「己の怠惰を棚に上げて、人の才を信じぬか」
「っ、違います! 私はそんなことを言ってるわけじゃ……!!」
「櫻華は」
声を上げる巴を無視し、神楽は静かに言い放った。
分からずとも、分からせずともいいが、言うだけ言わねばならないだろう。
すでに違うことを。すでに、そして、最初から櫻華の『場』は違うことを。
「選び、力をつけだだけだ。己の場に居続けるために」
――死に場所に居続ける為に。
それは心の内だけで呟き、神楽は階段を降り始めた。
「識さんっ! 私は……!」
巴は呼びかける……が、その後の言葉は続かなかった。
「強いて違いをいうのなら」
降りる足を止めることなく、神楽は一言いう。重く低く。
「生き方が違う。それだけだ」
たとえ同じ時を生き、同じものを学び、同じ修練を受けようとも、心に何を持つかで自ずと結果は違ってくる。それだけだ。
「それ以外に何がある? 人の差などそれだけだろう」
神楽は振り返ることなく笑う。後ろにいる人間のことなどは意にもかけずに。
「…………」
巴は唇を噛み締めると、俯きその場に立ち尽くした。
進むことも退くこともできず、神楽の後ろ姿を見ることすらできず、その場にただ一人ずっと――




