十二
「っ」
顔を鷲掴みにされ、櫻華は息を詰まらせながら後ろへと仰け反る。神楽は櫻華の踏み込みと同時に自身も身体を寄せ、それで体当てへの衝撃を減らし、寄せた勢いのまま右手で櫻華の顔を掴んだのだ。そのまま床へと叩きつけようと掴んだ手に力を込め体重を乗せる。
「――――」
だが、櫻華は掴まれた顔を手で弾こうとはせず、勢いに任せて後ろへと身体を倒した。流れに逆らわず身を任せ、後ろへ倒れる勢いを利用し僅かに空いた身体と身体の隙間に膝を入れ、後転とともに神楽の顔に向かって足を蹴り上げる。
鋭い音と共に顎に迫る蹴りを受けることはせず、神楽は掴んでいた顔を離し半身を逸らせた。蹴りは空を切り、櫻華は自由となった身体で床に軽く手をつくと後転の勢いのまま飛び上がり間合いを空けて着地する。
全ては一瞬――桜の舞う中、二人は再び無言で対峙した。構えを取ることもせず、まるで戦う前のように。
「ふ……くっくっくっ、楽しいな櫻華」
童子のように瞳を輝かせ、神楽は殺気を纏ったまま心底愉快そうに笑った。
「お前とわしは一緒だ。わしらが戦うのは、戦って戦って――」
一歩踏み出し、視線を向ける。
「そして、死ぬ為だ。お前もそうだろう――櫻華!」
呼びかけと共に、神楽は再度踏み込んできた。しかし、その動きはまったく違っていた。先ほどよりも数段速く櫻華へと迫り、右拳を振り下ろす。だが、そんな神楽の動きにも櫻華の身体は反射的に反応していた。左手で右の拳を捌き、打ち込みに合わせ鳩尾へと掌底を放つ。
櫻華の間も身体の反応も速度も問題なかったはずだった。拳を受けたわけではない。動きに合わせ勢いを流し、拳の軌道を外そうとしただけだった。しかし――それは、瞬きの時、
「――――」
櫻華の内で何かが閃いた。瞬間、神楽の拳と自分の腕が触れるその一瞬で櫻華は鋭く息を吸う。
――刹那、
ビシィッ――!!
重い響きとともに床に亀裂が入るほどの衝撃が櫻華を圧し、拳が触れた左腕から身体へと鈍い軋みが走った。捌き流そうとした拳の勢いを殺せず、押しつぶされそうな重圧が全身を覆う。神楽は笑みを浮かべる――その瞬間、
バチィ!!
空気が弾ける音とともに、櫻華は後ろへと吹き飛んだ。倒れ転がりそうになる身体を踏みとどまらせ、床に足を擦りながら三丈ほど間を空けて立ち止まる。




