十
ザッ!
――瞬間、鋭く地面を踏み込む音が響き、神楽は一瞬で櫻華の懐に入っていた。
踏み込みと同時に打ち込まれる右の拳。櫻華は慌てずそれを受けようと左腕を上げ……
「――――」
すぐに何かに気付くと、身体の捌きだけで拳を流し、神楽の左へと移動した。
「ふ――」
笑みを浮かべ、その動きに合わせるように神楽も左腕を振りぬく。目の前に迫る裏拳を紙一重でかわし、櫻華は続けてくる神楽の右拳に左手を合わせた。
バチィッ!!
激しい衝撃音とともに、櫻華は吹き飛んだ。一丈ほどの距離を飛び、櫻華はざっと足で身体を支え体勢を整える。
「よく気付いた」
櫻華の動きを見て、神楽は感心したように笑った。
「まともに受けていれば、お前の腕は折れていた。それを一瞬で判断し捌くやり方に変えるとは大したものだ」
ゆっくりこちらへと身体を向け、構えることなく自然体のまま神楽は袂を振り右腕を軽く上げた。指を上に開き、そして、軽く握る。
「驚いただろう。前の組手では三分の力も出していなかったからな。緊那羅が族の腕力は人間のそれとは違う。わしが力をいれれば、この学院を素手で壊すことなど造作ない」
無言で話を聞きながら、櫻華は左拳を握った。確かに受けた衝撃で痺れているが、力は入る。捌きを失敗さえしなければ、いくら力が強かろうとも問題はなかった。
「身体の傷もまだ完全には癒えておらぬだろう? 小太刀があれば良かったのにな……と、そうでもないか。お前は小太刀を使わぬだろうし」
言葉とは違い、いささかも気を使っている風はなく神楽は櫻華との『遊び』を楽しんでいた。殺気を緩めることなく更に鋭くさせ、攻撃の間を計りながら言葉を続ける。
「自らの術の力が強すぎるため、刀を使えばすぐに朽ちる。それを分かって刀を使わぬとは、本当にお前らしい」
戦いにおいて刀など消耗品でしかない。それを消耗品とは考えず、使えぬ刀を大事にするとはいかにも櫻華らしかった。




