八
「わし自身で言えば、世の支配などにはあまり興味は無い。あの夜叉族の女に言った通り、ここに来たのも退屈しのぎみたいなものだ。戦うにしろ戦わぬにしろ、人というものが、防人というものがどういうものかと思ってな」
神楽の言葉には些かも淀みが無い。心底からそう思っているのだろう。つまりは本当に退屈しのぎというだけで、白峰学院に来た。だとすれば、あの夜叉族という女が驚いていた理由も分かる。戦うと宣言している同種が、敵の中で普通に生活していたのだ。裏切り者と思われても仕方がなかった。
しかし、何よりも自分の興を優先させるのは、いかにも神楽らしいと思えた。短いながらも、何度か話すうちに櫻華にも神楽の性格は分かってきていた。
「なにか面白いものがあればとは思っていたが……来てすぐに面白い奴を見つけた」
名を出さなくとも、視線で誰のことをいっているのかはすぐに知れた。
「死に場所を与えてやる」
神楽は一言いうと、軽く手を上げ櫻華へと差し伸べる。
「わしと共に来い、櫻華。お前はここに居るべき器ではない」
差し出された手を一瞥し、
「……断る」
櫻華は静かに口を開いた。小さいながらも淀みなくはっきりと、言葉を紡ぐ。
「わたしは人間だ」
「ほう……」
凛と言う櫻華の返事に差し出した手を戻しつつも、なお神楽は話を続けた。
「そうか。だが、人としては戦っても、人の為には戦わぬのだろう?」
確信を込めて言う。この娘が『そうでないことは』――『人を救う為』などに戦わないことは分かっていた。しかも、
「疎まれているのだろう。人の世でお前の居場所はない。ただ一人になるというのではないぞ。敵にもなり、悪にもなり、お前を貶めようとする魔にもなる」
櫻華に対して人がどういう対応をするかなどは目に見えて分かっていた。無き者にするか、貶めるか、堕落させるか――もしくは、祭り上げるか。そのどれになったとて、櫻華には何の利もなかった。邪魔でしかないだろう。




