六
「…………」
対する櫻華は常と同じく無言。だが、神楽が話すことを偽りだとは思っていなかった。それは出会ったときから感じ分かっていたことだ、神楽が人ならざる者だということは。
「元より結界が万全なものではないことは、我らの間では誰でも知っている。魔を足止めできるのもせいぜい数日。その数日の間に結界の外で魔を滅してきたのが八部衆だ。そして、これは国の上の者も知っている話」
防人を目指す人間ならば、聞き流せる話ではなかっただろうし、納得できる話でもなかっただろう。人の世の平安を護ってきたと思っていた防人が、その実は結界内の魔を倒すだけの露払い程度しかしていないと言っているのだ。
だが、櫻華は否定もせず、驚くこともなかった。神楽の話していることが真実かどうかなどはあまり考えていない。いや、正直にいえばさほど興味もない。しかし、同程度とは言えずとも、防人に近い実力を持っている教師たちが、鎧武者の魔に対して何も出来なかったのは事実だった。そして、そういう魔が存在するにも関わらず、今まで人の住む場に現れなかったということは誰かが倒していたということになる。
防人にも強い術者がいるとは思うが……防人を育てている学院の実力と、鎧武者へと対峙した時の教師の反応を考えれば、神楽の言うことも嘘ではないだろうと思えた――何より神楽の力を考えれば。
櫻華は胸中で呟き、静かに神楽を見つめた。姿ではなく、その内を。出さずとも分かる、その力を。
「さて、話はここからだ。ここ数年、八部衆の間に何故我らよりも劣る人間を護らねばならぬ、という考えが出始めた」
神楽は話を続ける。櫻華の返事はなくとも、理解していることは疑っていない。何より、その視線が物語っている。話だけではなく『分かっている』ことに。
「我らは誓約の元、影で魔を滅してきた。それを知って、人間は歴史から我らを消し、我らを表に出さず下と見るようにした。力を恐れ、権威を取られぬように我らを従僕か何かだと思うようになった。そんな人間を何故護らねばならぬ、我らこそが人間を支配するべきだと。そして、その考えは行動に移された」
神楽は笑い、一度だけ山へと顔を向けた。先に行った社の方へと。
「お前も会った、あの黒装束の女も八部衆の者だ。あれは夜叉の族となる。まあ、好戦的な夜叉族らしいな。暗躍していることは知っていたが、こうも堂々と結界を壊し魔をけしかけるとは思っていなかった。動かぬ現状に痺れをきらし、小競り合いをさせて戦の気運を強制的に作り出そうとしているのかも知れぬが、わしの好みではない」




