四
(果たして――)
散華は魔に抗する強力な術であり、尊ぶべきものであり、喜ぶべきもの――妙月櫻華は望まれる存在、誰もが望んだ存在。それは、真実のはず――真実でなければならない。
『しかし』
(一体、誰が……)
誰が喜び、望んでいるのか。事実、散華を使える者など誰も望んでいないのだ。防人も、学院も――皮肉だが、魔も。
誰もが望んでいない、誰も触れたくない人間。居て欲しくない人間、居なかったほうがよかった人間――存在をなかったものとしたい人間。
「…………」
壁に寄りかかり、巴は頭を窓に乗せた。
じゃあ、何故自分は探しているのか――礼を言いたいのか、謝りたいのか、それともただ話したいだけなのか、接したいだけなのか。
それとも……まだ『自分のほうが正しい』ことを示したいのか。正しいことを示し、自分が自分で在ることを保ちたいのか。
(……正しいってなに?)
呟く。こんな考えが浮かぶこと事態分けがわからないことだった。もし、櫻華や神楽へ向かってそれをしたとして、一体何になるというのだ。
壁に寄りかかったまま、なお身体が落ちる。このまま座り込みたい衝動にかられる……が、それはなんとかとどまった。
会わなくてはならない。櫻華と神楽に。それが学生会長としての立場だからでもなんでも良かった。どういう理由でもいい。とにかく会わなければならない。
身体を起こし、顔を上げる。すると、視界の隅で一片の花弁が舞った。
(――桜)
はっと気付き、窓の外を見つめる。
蒼天の空に桜が舞い、陽の光に煌き瞬いていた。それを見て、巴は歩き出す。
桜の舞う空がある場所――屋上へと。




