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一
櫻華は桜を見つめる。
空と桜と、己と――
ただ一人、その場に一人だけで立ち、視線を先へと向けたまま。
――――――――――
十体の鎧武者との戦いから十日後。
傷だけは塞がり、学院へと戻ったが――そこには櫻華の居場所は無かった。
(そういえば、屋上というところに行くのは初めてかもしれぬな)
屋上への階段を上りながら、神楽は心で呟いた。
木造の階段を音も立てずに歩みを進めていく。まるで、神楽の姿を見なければ人がいることさえ分からないくらいに学院内は静かだった。そんな静謐の中、神楽は無言で、そして、無音で最後の階段を上りきる。
行き止まりに扉があった。ここが目的の場所、屋上への入り口になる。
「さて」
今度は口に出して呟き、扉に手をかけると、神楽は静かに開けた。
眩い陽の光と少し強い風が薄暗い学院内へと入り込んでくる中、神楽はなおも扉を開き続ける――そして、完全に開け放った屋上のその先には、探していた人物が一人立っていた。




