十五
オオオォォォォオオオォォオオオ――――!!
絶叫ともいうべき、最後の死の声が響き渡る。無手の鎧武者が我武者羅に突っ込んでいき、続けて、太刀と槍を持った鎧武者が突進してきた。
構えもせず、櫻華は静かに見つめる。立ったまま死んだかと思うほど微動だにせず、その周りは静寂に包まれていた。
両の腕で櫻華を潰そうと、無手の鎧武者が覆いかぶさってくる――が、櫻華に触れることなく腕は桜と化し、すっと上げた掌に黒い巨体は花弁と散った。
ザァァッ――!
その花弁を切り裂き、太刀と槍が振り下ろされてくる――だが、その時には、櫻華は空を舞っていた。トッと太刀を持った腕に爪先をつけ――ゆっくりと、まるでそこだけ時が止まったような時間の中で――もう一度ふわりと舞い上がる。
そして、トッ――と身体を飛び越え背中に降りた時、もうその時には鎧武者は桜と舞い上がった。
残り一体。櫻華はゆっくりと振り返った。
最後の鎧武者は突進し、櫻華の胸に向って槍を突き出す。轟音を立てて突き出されるその槍を半歩身体を逸らし一歩踏み出すだけで避け、櫻華はそのままゆっくりと歩みを進めた。
サッと、袂を揺らし、髪を靡かせ――櫻華は鎧武者の横を通り抜ける。立ち止まらず、ただ歩いていく。
その後ろで、
サァァァァ――――
槍を持った鎧武者は穂の先から徐々に桜と咲き、やがてその身を花弁と化して舞い散った。
蒼天のもと花弁は咲き誇り、千載の桜はいつまでも舞い上がっていた。




