十四
「――臨終、今にあり。唯、戦に死せん」
桜花を身に纏いながら、櫻華は小さく――本当に小さく囁いた。
「桜の散る如く」
一瞬、時世の句かとも疑う……が、それが間違いだということはすぐに分かった。
櫻華の囁いたもの、それは散華の行。
オオオォォオオオォオオオオォォォォ―――
目前にまで来た鎧武者は、櫻華の声が聞こえたのだろうか。その瞳に、その心に、舞う桜に気付いているのだろうか。
鎧武者は唸りを上げ、太刀を振り上げた。それに対して、櫻華は微動だにしない。ただ静かに、自身の桜を見つめている。
オオォオオオオォォ―――!
障りの咆哮と共に、魔は目の前の少女へと死の刃を打ち込む。
櫻華は動かない――動く必要はなかった。生の覚悟も、死の覚悟もすでにある。
――――サァァァァ――――
花弁が舞い上がる。振り下ろされた鎧武者の太刀は桜と化した。
続けて槍が突き出されるが、櫻華は気をとめることもなく、さらにもう一歩踏み出す。
「――我、桜と共にあり」
櫻華は小さく詠った。リンと鈴が鳴るように、風が囁くように、桜の花弁が微笑むように――
身体に触れる前に、太刀と同じく槍は桜花となった。その光景に、五体の鎧武者が一歩足を退く。
櫻華は立ち止まると顔を上げた。鎧武者の中心へと立ち、静かに言い放つ。
「散華――桜花」
刹那、櫻華の左右にいた二体の鎧武者が音も無く桜と散った。
サァァ――
舞う桜に触れ、残った三体の鎧武者がなおも足を退いた。
脅えるように、恐れるように、仰ぐ桜に嘆き伏せるように――
対峙する鎧武者と櫻華。だが、もうその時には勝負は決していた。退いた時点で戦いにはならない。人間を堕とそうとする魔が人間を脅えた時点で、その存在理由はなくなっていた。




