八
オオォォォオオォォォォオォォ――――!!
無手が二体、太刀が四体、槍が三体――その鎧武者が動き出す。一斉に、櫻華に向かって。
合わせて櫻華も右足を蹴り上げた。相手が多数の場合、待っているのは愚策だった。かといって、相手が構えているところに飛び込むのはもっと愚策となる。つまりは同時に踏み込むしかない。
ザッ――と、鋭く息を吸い、三丈の距離を一気に縮める。動きを止めないまま突き出される槍を紙一重でかわし、続けて振り下ろされる太刀を左手で横に流し、もう一度右足を蹴り上げ太刀を振り下ろしたばかりの鎧武者の懐へと身体を滑り込ませる。
鳩尾へ掌を触れさせ――すぐに櫻華はザッと身体を入れ替えて懐から抜け出した。無手の鎧武者二体が仲間もろとも櫻華を押しつぶそうとしていたのだ。囲まれ覆いかぶさられたら、それで終りとなる。それに気付き、櫻華はすぐに足を滑らせ、僅かの間がある場へと抜け出した。
――が、それも少しの時。暇なく、囲い始めていた鎧武者が抜け出した櫻華の背中に太刀を振り下ろしてきた。気配だけでそれを感じとり、櫻華は鋭く息を吸うと身体を回転させ飛び上がった。振り下ろしの腕へと蹴りを入れ、間合いを空ける。瞬間、なお間合いを空けるか、踏み込むかが頭によぎった。だが、考えるまでもなく身体は瞬時に動いていた。着地と同時にザッと足を蹴り上げ、櫻華は再び鎧武者へ向かって踏み込む。
口の中で術式を唱え横薙ぎの一閃を飛び越えると、腕を足場にもう一度飛び上がり鎧武者の顔へと左手を当てた。
サァァ――
掌を当てたと同時に鎧武者が桜花と変わる。――が、
バキィッ!!
骨が軋む鈍い音と共に、後ろから迫り振りぬかれた拳に身体が吹き飛ばされた。ガンッと地面に叩きつけられ、土煙を巻き上げながら転がり、やっと身体が止まる。
しかし、櫻華は痛みを感じる間もなく、すぐに飛び上がった。
ガゴッ!!
顔の寸前で風がうねり、自分の倒れていた場所に太刀が抉る中、櫻華は地面に足をつけると同時にすぐに踏み込む。
身体が悲鳴を上げていた。どこかの骨が折れているかもしれない。だが、それでも櫻華は鎧武者へと近接した。以前と変わらぬ動きそのままに。
オオオォォォオオォォォォオッッ――――!!
死の声が止まず木霊し続けていた。意識せず、瞬時に判断する――残りの鎧武者は八体。一瞬でも止まれば攻撃を受ける。だが、術を紡がなければ、倒さなければ意味がなかった。
(――倒す)
そう、倒さなければ意味がないのだ。自分が傷つかないようにするのが目的ではない。かわしつつ倒そうと考えていたこと事態が、戦いに臨む者の心ではなかった。恐れや迷いは動きを鈍らせる。ましてや、一字でなければ散華は使えない。
倒す――その一字でいい。




