七
「これからだな」
櫻華の戦いの様子を神楽は本当に楽しそうに眺めていた。櫻華の真価はここからだろう。その才、その力、その器――その心底の真がどれだけのものか。
「見せて貰おう、櫻華」
呟き笑う神楽。と、その後ろへと気配が近づいてきていた。
「妙月さんっ!!」
声を響かせ走り寄ってくる。視線だけ向けると、巴と芹奈を含んだ数名の教師が神楽の傍へ走ってきていた。
学生は巴以外にはいない。それはそうだろう、下手な人間を連れてくれば死ぬだけだった。かといって、ここに来ている教師たちがそれほど変わるとは思えなかったが……ともあれ、ここに来れたのも櫻華が戦っているからだろう。もし、櫻華がいなければ出て来れたかどうかも怪しい。一目で分かっているはずだった、手に負えないということは。
(学生が戦っている以上、せめてもの教師としての面目か。いや、それとも力の差が分からず、なんとかなるなどと考えている阿呆かも知れぬな)
嘲りを通り抜け、心でややうんざりしながら呟いていると、ただ一人の学生である巴が更に声を上げた。
「妙月さん、私も一緒にたたか――」
「――――」
一瞬の視線。その一視だけで、それだけで巴の声は止まった。喉に……いや、もっと深い部分に何かを突き立てられたようなその感覚に、息ができなくなる。
櫻華の視線――それは巴が人生で初めて目にしたものだった。睨まれたわけではない、怒りを含んでいたわけでもない、静かな櫻華の視線。だが、そこには明確な一つがあった。魔の瘴気よりも重く、冷たい、死の空気――殺気。
(どうして……)
「邪魔をするな。おまえが行ったとて、無駄に死ぬだけだ」
息が止まって立ち尽くす巴へと、神楽は見下したように口を開いた。
「あれは櫻華の舞台だ。他の者が上がることは許されん。邪魔をして、場を汚すな」
冷たく言い放ち、身体すら動かせなくなった巴と立ち止まった教師たちから早々に視線を逸らし、神楽は櫻華を見つめた。
「客は黙って見ていろ」
櫻華の姿に、嘲りから笑みを浮かべる。桜花は更に舞い散り、場を鮮やかに染めていっていた。




