四
止まることなく足を滑らし、一息もつけないほどの攻撃を手と身体の動きで捌き、かわし、流しながら櫻華は呼吸を整えていった。徐々に自分の間合いへと持って行き、懐へと踏み込む瞬間を待つ。
横薙ぎに振り抜かれた刀を後転でかわし、地面に足を突いた瞬間、櫻華は半分身体を回転させた。鎧武者の動きを把握し、次の打ち込みの瞬間を櫻華は分かっていた。
オォォォォオオオオッッ――――
耳につんざくような声と音を響かせ、目の前を通り過ぎていく槍を感じながら、腰を僅かに落とし右足の親指に力を入れる。そして、ズドンッという音と共に、退く槍に合わせて鎧武者の懐へと櫻華は踏み込んだ。
本来なら攻撃の打ち込みと同時に懐に入るほうがいい。槍を退く間に、一泊の隙ができるからだ。だが、今回は打ち込みの多さの為、槍の退きと同時に踏み込むしかできなかった。
相手はすでに迎え撃つ態勢を整えつつある。次の攻撃に移られる前に、こちらの術をほどこさなければならない。息をつかないまま、口の中で櫻華は術式を唱え始めた。集中し、鮮明に精密に純粋に組み立てていく。焦りや恐れがあれば散華は成立しない。
一秒とない刹那の間。櫻華は、鎧武者の鳩尾へと手を触れた。
サァァァァ――――
触れた鎧武者が桜花と変わる……が、
ズザァァッ!!
その瞬間、桜が上下に割れ、風に舞う花弁とともに櫻華が吹き飛ばされた。
「……っ……」
右腕を押さえながら、立ち上がる。血が滴り、薄紅色の術衣を紅に染め上げていっていた。
咄嗟に身体を捻ったおかげで骨までは達していないだろう。だが、深く切り裂かれているため、右手はもう使えなかった。地面に黒い染みを作りながら、櫻華は身体の構えを取る。
オォォオオオオオォオオ――――
目前には鎧武者たちが向かってきていた。無言で視線を向け、改めて相手を認識する。相手は魔なのだ。人間の常識など通用しない。そう――仲間もろとも刀を打ち込んでくるなど普通のことなのだ。
懐に入って一体一体相手にしていくというやり方は使えなくなった。動きを止めれば、さっきと同じようになる。
(……だとすれば)
全員を相手にしながら術をほどこしていくしかない……しかし、時間がかかればかかるほど、こちらが不利になっていくのは目に見えていた。
攻撃をかわし続けることは出来る。だが、術の集中のたびに危険は増していく。危険が増していけば、いつかは攻撃を受けるだろう。
ツツ――と地に落ち、止まることなく流れ続ける右腕の血を感じて、櫻華は目を鋭くした。加えて、時間の制限がついた。今の動きを維持するのなら、早めに決着をつけるしかない。
――その時背後で別の気配が現れた。




